「信じられない未来に、僕は備え続ける」Better safe than sorry.

怪物イケダ

第0話 プロローグ「変わらなかった未来」

 ──熱い。

 皮膚が焼けるような、痛み。

 息をするたび、肺に焦げた空気が流れ込んでくる。


 


 ケイは、立ち尽くしていた。

 瓦礫に覆われた広場。

 黒く焦げた建物。

 泣き叫ぶ人々。

 誰かを呼ぶ声。

 すべてが、赤く、黒く、ぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。


 


 ──守れなかった。


 


 震える手を、だらりと垂らす。

 夢で見たあの光景が、目の前に広がっていた。

 何度も抗おうとした。

 予知夢にあらがい、必死に警告した。

 けれど、それでも。


 


 「……結局、何も変えられなかった……」


 


 呟いた声は、かき消されるように闇に沈んだ。


 


 火の手が、さらに広がる。

 逃げ遅れた子どもが、助けを求めて泣いている。

 ケイは、思わず駆け出した。


 


 ──それでも、救えるものがあるかもしれない。


 


 熱にあえぎながら、煙の中を走る。

 足はもつれ、視界はぼやけ、それでも、諦めたくなかった。


 


 たとえ、未来を変えられなくても。

 この手で、目の前の誰かを救えるなら。


 


 その時、ケイは、心に誓った。


 


 ──起きる未来を、嘆くのではなく。

 ──起きる未来に、備え続けるのだ。


 


 燃え盛る世界の中で、ケイは顔を上げた。


 


 「備えあれば……」


 


 声は小さく、けれど確かに響いた。

 その瞬間から、ケイの戦いは始まったのだった。

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