第3話
旭の始まりは乱世の時代。坂原家の正門に、赤子が捨てられていた。
薄汚れ擦り切れた生地にくるまれ、泣きもせずスヤスヤと眠っていた。それは春も過ぎ初夏の訪れがきていたせいか、暖かい陽だまりの中に気持ちよさそうにみえた。
そこへ当主の忠直(ただなお)が馬に乗り出かけるため正門をでた。すると馬の足どりがおかしかった。忠直は馬から降りて足元を見た。正門の中央に赤子が寝かされていたのに気付き、思わず抱きかかえたのだ。
「何と凛々しく美しい赤子だ。こんな所に捨てられ可哀そうに」
従者の風次(ふうじ)が後を追ってくると忠直が赤子を抱いているのを見て馬を降りた。
「親方様、捨て子ですか」
「そのようだ」
「この時代、珍しくないもの。貧しくて、ここに捨て置いたのでしょう。放って置いてわ」
「だが、不憫でしかたない。そうじゃ藍姫の遊び相手として育てよう」
赤子に朝日が眩しく差し込むと、目をさまして瞼を一度開けたが、また強くつぶり手足をバタバタと動かした。その愛らしい子に忠直は笑いかける。
「おうおう、眩しいのう。そうだ。お前を旭と名付けよう」
忠直は藍姫が産まれたばかりで赤子を見ると、姫と重なり放ておけなかったのだ。
そこで旭が幼いときは姫の遊び相手として、そして大人になれば当主の従者として育てることにした。それは旭だけが知っている。遠い遠い昔の出来事だった。
現在において旭という名を現世で取り戻したときから、この時代こそが白藍の姫と再び出会えると確信していた。
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