追想と翼望(ついそうとよくぼう)

神地 香里

第1話



 草木が生い茂る獣道を、息を切らせて走り抜ける。苦しさの余り道に転がり落ちるが、追い込まれるため、また立ち上がり走り出す。  


旭(あさひ)の繋ぐ手に力が入るものの白藍(しらあい)の姫は、もう力尽きている。されるがままに引っ張られる手に、着いていくのが精一杯だった。


 道が開けたと思ったが、そこには険しい崖があり下に広い川が流れている。もう追い詰められて行く当てもない。


思い切って旭は白藍の姫を抱き、崖から飛び遥か下の川に墜落した。落下途中に矢が雨の如く降り注ぐ。白藍の姫を体で包み込むように抱いていたため旭だけが背中に矢をうける。痛さの余りうめき声があがる。


「うわあー」


寝汗をかき、うなされて目が覚める。これは旭の前世で最終の記憶であり最愛の人と別離した瞬間であった。幼い頃から同じ夢を見ては悲しみが蘇る。旭は前世を忘れられない特殊な体質で、愛する白藍の姫を今生で探し出したかった。

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