第11話Side感情優花③
ううぅぅぅ…ま、マジで怖い…。こ、これが修羅場という奴かな…?かな?
私と豊和君の前に降臨なされたのは阿修羅に見間違える女性。
「──ねぇ、豊にぃ…それにそこの発情した
彼女の目は鋭く私を捉えている…。その声は冷え切っていてとても冷たい。ど、泥棒猫なら分かるけど…泥棒雌兎って何…?き、聞いたら怒られるよね…?
「あれ?二人とも私の声が聞こえてないのかな?かな?私は何してるのと聞いてるんだけど?」
まあ、私にのしかかるプレッシャーが強すぎて口を開けなかったんだけど…。
と、とりあえずそんな状態でも喋らないとマズイよね…?私はのしかかるプレッシャーを押し返しながら口を開いた。
「「い、いや…その…これは誤解──」」
「──誤解も何もないんじゃないかな?あっ、とりあえず二人ともその場に正座してくれる?」
無意味だった…。あ、はい。正座します。ただ…服は…?あっ、このままですよね?分かってます…。
そして正座して間もなく…
「こら!そこっ!泥棒雌兎にいやらしい視線を向けない!」
ふぇっ!?私を見てる!?しかもいやらしい視線で!?この言葉に私は驚きと喜びを隠せなかった。女性ならみんなそうなると思う。
「い、いや…見てない」
「へぇ~…。嘘つくんだ…?」
「う、嘘では…」
「生唾も飲み込んでたのに?これ以上豊にぃが嘘をつくのなら…私に襲われる覚悟はあると思っていいんだよねぇ?必死に毎晩毎晩こちとら自分で自分を慰めて我慢しているんだから…」
ああ…妹さんの気持ち分かるわぁ…。私にこんなイケメンなお兄ちゃんいたら襲ってるもん…。問答無用で…。そりゃあ溜まるし、自分で慰めるしかないよね。
それから…暫く苦行の正座を続けながら、双方の話を深雪ちゃんに伝えた。まあ元を正せば誤解というか豊和君の言葉が圧倒的に足らなかったのが原因だったの…。ちょっと悲しくなったのは言うまでもないよね…。
「──それで豊にぃは本気で言ってるの?本当に感情さんに曲を提供するつもりなの?」
話はここからが本番と言えたよね…。
「うん。感情さんの歌声を聴いて、彼女に俺の作曲した曲を歌ってもらいたいと心から思ったからね。それにもう彼女の為の曲はできているんだ」
男性が曲を…?いやいや…その前に私に歌って欲しい…?夢見てるのかと思ったんだよね…。
「ええと…ほ、本当に私が歌うの…?」
だから恐る恐るそう尋ねたの…。
「うん。感情さんに歌って欲しいんだ。感情さんに歌ってもらう為に作曲したんだしね」 「わ、私…何度もオーディションに落ちてるんだよ?」
「そのオーディションの審査員に見る目と聞く耳がなかっただけだと思う。それに曲が感情さんの声についていけてないだけだよ」
そんな事言われた事がなかった…。
「…男性が作曲した曲に払えるお金ないよ?体…なら払えるけ──ひぃっ!?」
だからついいたらない事を言っただけだから深雪ちゃんは睨まないで欲しい…。
「お金なんてとらない。俺は君の、感情さんの歌声に惹かれたんだ。だから逆に俺がお願いしたいんだ。俺の作曲した曲を歌って欲しい」
まあ、そんな事言われたら…私は号泣するしかなかった…。勝手に涙が溢れてきちゃったんだもん…。
「…ひっ、ひぐっ…うぇぇぇーん…は、初めて…ぐすっ…そんな事っ…言われましたっ…」
「ちょっ!?感情さん!?」
「…ふぅ~…。仕方ないよね。豊にぃ…今だけ感情さんを抱きしめてあげて」
この時の深雪ちゃんは優しかったな…。私の気持ちを汲んでくれてるみたいで…
まあ出すもの出してスッキリしたら豊和君が歌を聞かせくれた…。
とても素晴らしい曲…豊和君の歌声も凄く素晴らしい…。
「~~~♫ ──ってこういう感じの曲」
曲が終わると同時に思った。これ…私が歌う意味ある…?豊和君が歌った方がいいんじゃあ…?だから尋ねた…。
「…えっ……神…?こ、これ私が歌うよりも豊和君が歌った方がいいんじゃない…の?」
って…。つい名前呼びもしちゃったんだよね…。
「はぁっ!?何をドサクサに紛れて感情さんは豊にぃを名前呼びしてるのかな?」
「だ、だって…深雪ちゃんもいるわけじゃん!?苗字で呼んだらどっちに話し掛けているのか分からないでしょっ!?」
「──チッ!」
「舌打ち怖っ!?」
ホント深雪ちゃんの舌打ちは怖すぎる…。
「感情さん。俺は全然名前で呼んでもらって大丈夫だから」
「は、はい!私だけ名前で呼ぶのはアレなので…わ、私の事も名前で呼んで下さい!」 「う、うん、分かったよ。優花さん」
「さ、さんは要らないです!む、寧ろ呼び捨てでお願いします!」
ずうずうしくもお願いはしておく。この時の私グッジョブだね!
「えっ……と……ゆ、優花…?」
「はい♪」
「──チッ!──チッ!」
「深雪は舌打ちばかりしない。んで、なかなか先に進めないので話を戻すけど…さっき優花が俺が歌った方がいいんじゃないか?と言ってたけど俺じゃあこの曲をフルに引き出せていないんだ」
「あ、あれで…?」
「私なんか♡マークが浮かんだのにっ!?」 「まあ、優花が歌ってみたら深雪にも分かると思うし、なにより優花本人にもこの曲は私の曲なんだと分かると思う。優花、一番のAパート、それからBパート、そしてサビまでは覚えてる?」
一度聴いたら忘れられるわけないよ。こんな曲…。
「う、うん。こんな神曲、一度聴いたら忘れられないよ」
「そうだよ、豊にぃ!いつも言ってるでしょっ?豊にぃの作った曲は最高だって!神曲だって!」
深雪ちゃんの言う通りだと本当に思う。
「二人とも…ありがとう。そんな風に言ってくれて」
「ホントの事だよ!」
「そうそう」
「ホントありがとうな。──じゃあ、優花。あの時高架下で歌ってたみたいに自由に歌ってみて!」
「うん、歌ってみる」
あの時のようにだね。
私は意を決して歌出す。歌出してすぐに分かった。歌いやすかったんだよね…。声が自然に出るというか伸びるというか…。とにかくこの曲は豊和君が言った通り…私の為の曲なんだという事が…。
もっと歌いたい…そんな風に思いながらサビまでを歌い終える。
その時ようやく気がついた…。
私の歌を聞いていたのは深雪ちゃんと豊和君だけじゃなかった事に…。
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