4日目②

 「どういうこと?」


 少しカミラの言ったことの意図を考えてみた。

 結果わからなかった。


 「わたくしもその鬱陶しい人の一員ではなくて?」

 「え、なんで?」

 「フィーナをお金で買っているわけじゃない。これこそまさに打算でしてよ?」


 言われてみて確かにそうかもと思った。

 なんというか……。


 「うーん、それはそうなんだろうけど。でも違うんだよねえ……」


 口に手を当てて、そしてつぶやく。

 違う。そう違うのだ。

 具体的になにが違うのかと問われれば正直なところわからない。

 上手に言語化できないというのが正解か。


 とにかく違うものは違う。

 これに尽きる。


 モブ令嬢は非常に鬱陶しくてなんだよ絡んでくるなよって思うのだが、カミラに対してはそこまでの嫌悪感は抱かない。


 「違う?」

 「うん。別にカミラはいいんだよね。一緒にご飯食べてもいいかなって思える。他の人たちはちょっと嫌だけど」


 あー、わかったかもしれない。


 求めている……というか見ているところの違いだ。


 モブ令嬢は私を通して攻略対象と権力を見ている。

 私と仲良すれば攻略対象とお近付きになれるかもしれない、権力のおこぼれを貰えるかもしれない。

 そういう嫌ったらしい打算が見え隠れしている。


 一方でカミラは私を通して私を見ている。


 本心では私を通して攻略対象と仲良くしたいとか、アレクシスとの復縁を狙っているとか、失った取り巻きたちの信頼を取り戻したいとか、そういうことを画策しているのかもしれないけれど、少なくともこうやって接している中でそれが見えない。


 彼女はしっかりと隠せているのだ。

 だから、関わっていて嫌な気持ちにならない。

 お金で友達という関係になったのは……打算というか計画的であるが、それ以上に誠実さのようなものを感じる。


 「カミラからは私への愛を感じるからね」


 なんてちょっとおどけてみる。


 無茶苦茶誇張した表現だ。

 でも感じているこれは友情とは異なり、かと言って政略やら策略のようなものも感じず、もちろん義務感のようなものも感じない。


 ものを知らない私なりに頑張って近しい感情はなにかと巡らせる。


 そうすると愛になる。


 「な、なにを言ってますの!?」


 驚いたような反応を見せたカミラ。

 まさかそんなに驚かれるとは思わなかった。


 「そんなわけありませんわ! あ、愛。愛……愛だなんて。フィーナは冗談がお上手なこと。おほほほほほほ。まさか、そ、そんなの……愛、だなんて。ありえませんわよ!」


 と、早口になるくらい必死に否定されてしまった。


 違うのは私だってわかってた。

 九割九分くらい冗談のつもりだったし。

 でもそこまで必死になって否定されるとなんだかそれはそれで寂しくなってしまう。


 「そ、それよりも早くご飯食べませんと。もうすぐ次の講義が始まりますわよ」

 「そうだね」


 休み時間はあっという間に過ぎてしまうのだから不思議だ。

 パカッとカミラはお弁当を開ける、

 かなり豪華なお弁当だった。

 仮に値段をつけるのならいくらになるのだろうというくらい豪華。


 「凄いお弁当だね」

 「ふふふ、もっと褒めてくださいまし」

 「カミラ様。料理長が褒められているのであって、カミラ様が褒められているわけではございませんよ」

 「なっ!? エリシアそうだったの!?」

 「左様です。フィーナ様はお弁当が凄いと褒めたのですから、褒められているのは食べるだけのカミラ様ではなくて、お弁当を作られた料理長であるのは当然でしょう」

 「ぐぬぬ」


 ずっと思ってたけど、エリシアさんって結構トゲあるよね。


 「フィーナのお弁当も可愛らしいですわよね? どなたに作ってもらったものでして?」


 私のお弁当を覗き込んでそんな感想をぶつける。

 こじんまりとした味気ないお弁当を見て可愛いと表現する。

 さすがは令嬢だ。取り繕う能力に長けている。


 「自分で作ったんだよ」

 「ご自分で!?」

 「え、はい」

 「す、凄いですわね。手作り……フィーナの手作り、凄いですわね」


 褒めておだててくれる。

 そんなにヨイショされてもなんにも出ないよ。

 あっ、おかずくらいならあげてもいいけど。


 「そこまで褒めてくれるなら、おかずいる? 一口くらいならあげるよ〜」


 お箸でおかずを掴み、ひょいっと持ち上げる。


 「なんちゃってね。私が作ったのなんていらないよね」


 カミラのお弁当を見て苦笑する。

 こんな豪華なお弁当には申し訳ないが太刀打ちできない。

 そのお弁当がありながら私のおかずも欲するのは余程のかわりものか、食いしん坊のどちらか。


 「欲しい! 欲しいですわ!」


 あーんっと自分で消費しようと思ったら、カミラは食い気味に顔を近付けてきた。


 え、は、え。


 と、戸惑っているとぱくりとお箸から奪った。そしてもぐもぐと口を動かす。


 「美味しい!」


 笑顔を見せた。

 悪役令嬢とは思えない善良っぷりに私の脳みそはもう本当におかしくなりそうだった。

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