4日目①
お昼休みのことだった。
いつも通り真っ先に講義室を後にして、中庭の端っこへ向かう。
私はそこでいつもこそこそぼっち飯をしている。
なぜそんなこそこそしているかって?
理由は非常に単純明快。
講義室やラウンジ、食堂などでお昼ご飯を食べていると誰かしらが相席してきてわーわー喋ってくるのだ。
アレクシスを筆頭にする攻略対象が話しかけてくるのならまだいい。
それでも若干鬱陶しいと最近は思うようになってきたが。
問題はそれ以外のモブ令嬢である。彼女らもここぞとばかりに私への接触を試みるのだ。
お茶会に参加しない罰だと言わんばかりに接してくる。
私の至福であるお昼の時間を邪魔をしてくる。
鬱陶しくてご飯が美味しくなくなるのでやめて欲しいのだが。
彼女らにさすがに直接そう言える度胸を私は持っていない。
なので、適当に愛想笑いを貼り付けていた。
で、もう最初から関わらなければいいんじゃね? となった。
まあその結果がここでご飯を食べることである。
少し遠くに目をやれば中庭でご飯を食べるお嬢様方だらけなのだが。
ここはちょっと入り組んで、陰にもなっている場所。
ひっそりと食べている分にはバレない。
近寄ってくるのは可愛らしい小鳥さんだけ。
ちゅんちゅん寄ってくるけれど、お弁当はあげないよ。
朝頑張って起きて作ってるんだから。
「あっ! いましたわ! やっと見つけましたわ……」
ぱくっとおかずを口に持ってきたのと同時に目の前に人がやってきた。
びくっと肩を震わせ、危うく口に入れたおかずをぽろりと落とすところだった。
危ない、危ない。
目の前にやってきたのは他でもない悪役令嬢カミラであった。
後ろにはメイドのエリシアさんもいる。
目を合わせると、若干苦笑しながら会釈してきたので会釈を返す。
もしかしてこの人気のないところで私を殺すつもりなんじゃ……と、少し前の私であれば、勘繰って警戒するのだろうが、さすがにもう警戒したりしない。
いや、カミラの本性は悪役令嬢なので、完全に信用するというのはそれはそれでどうなんだと思うところもあるが。
ただ最近、私の中で彼女の評価は少し変わっていた。
悪役令嬢という位置付けから、チョロいご令嬢、という認識の変化。
チョロイン令嬢。
「カミラ、どうしたの?」
息を切らしている彼女に声をかける。
「ご一緒しようと思いまして、お昼を」
エリシアさんがお弁当を持っていた。
「お友達になった日からずっと探していましたの。どこに行っても見当たらず困ってましたわ」
「あー」
ずっと探していたのか。
それはなんというか、申し訳ないことをしてしまったなと思う。
というか、その間にも会っていたんだから一声かけてくれれば良かったのに。
そうすればどこで……っていうのは言わなかったかもしれないが、隠れてご飯食べてるから探さなくていいよくらいは言ったかもしれない。
「それにしてもなんでこんなところで食べてますの?」
不思議そうに質問をぶつける。
そして流れるように私の隣に座って、エリシアさんからお弁当を受け取った。
「まあ……いろんな人から身を隠すためかな」
「命を狙われてますの!? いけませんわ! エリシア、今すぐフィーナに護衛を……!」
「カミラ様。お嬢様。落ち着いてください。仮に命を狙われているのなら、こんな所で一人になって悠長にお弁当を食べていません。こんな所で殺されたら孤独死間違いなしです」
「た、たしかにそうですわな。こんなところで死んだら誰にも見つかりませんわ」
あわあわしていたカミラに対して冷静な指摘を入れるエリシア。
指摘自体はその通りなのだが、物騒な例を出すのはやめて欲しい。
「打算的に仲良くなろうと近付いてくる人が多くて、鬱陶しいから逃げてるだけだよ」
あははー、と乾いた笑いを浮かべる。
まさか攻略対象の好感度をさっさとカンストさせてしまった結果、こんなことになるなんて思ってもいなかった。
やり直せるのなら、ゲームのルート通り、丁寧に好感度を上げていくのだが。
あとのまつりだ。
後悔を募らせていると、カミラの表情は曇った。
まるでこれから豪雨が降るかのような曇り具合。
「……それって、わたくしもですわね?」
と、世界の終わりみたいな声でつぶやいた。
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