3日目②
特筆するような問題は起こらず、生徒会の会議と仕事は終わった。
年度始めなので予算管理が大変なのだが、それは……まあ、未来の私がどうにかしてくれるはずなので。うん。
「それじゃあ片付けて解散。お疲れさん!」
アレクシスの一声で生徒会室内に漂っていた空気は弛緩する。
それから、
「フィーナ、ちょっと話がある」
と、アレクシスは私に声をかけた。
さっき弛緩した空気は一瞬にして張り詰める。
なぜか元に戻った。謎だ。
アレクシスだけじゃなくてほかの攻略対象たちも揃って私を見る。
固唾を飲んで見守るという表現がピッタリな視線。
「話……ですか?」
書類を纏めて……帰ろうとしていた私はこてんと首を傾げる。
ちなみに書類は片付けようとしていただけであって、決して隠そうとしていたわけじゃない。大事なことなのでもう一度言うが、決して隠そうとしていたわけじゃない。
未来の私が頑張るから残っている仕事を隠そうだなんて、そんな先延ばしみたいなことするわけないじゃないか〜。
「ああ、その……」
アレクシスは目を泳がせた。
そして私がアレクシスと目を合わせようとするとなぜかすんっと目を逸らす。
え、なんで!?
ほかの攻略対象たちと目を合わせようとすると同じように目を逸らす。
緊張感とか重々しさとか、そういう言葉が似合っていた空気はなんだか徐々に気まずさへと変わっていく。
それからアレクシス以外の攻略対象はアレクシスを見る。
私も真似をする。
「……フィーナ、なにか悩みはないかい?」
口を開いたアレクシスはそんなことを脈絡なく訊ねてきた。
あまりに突然のことでさすがに驚く。
悩み……。
私悩みを抱えているような顔をしてきたのだろうか。
もちろん悩みなんてない。
あるとすれば、歩く度にお茶会に誘われるくらいで。
あ、もしかして無自覚のままそのことについて悩んでいたのだろうか。
アレクシスの問いに攻略対象は一切口を挟まない。
見守るように私を見ている。
つまり、アレクシスだけじゃなくて攻略対象から見ても悩んでいるように見えたのだろう。
どうやら無自覚のうちに相当悩んで顔に出ていたらしい。
「……実は」
はっきり言ってしまえばクソほどどうでもいい悩みであった。
少なくとも相談するようなことではない。「お茶会にすごい誘われるんですよ〜」と相談したところで「だから?」となるのがオチ。そっか、頑張ってねと応援されるだけ。
だから相談するつもりは毛頭なかった。
ただ、ここまで心配されると話は変わってくる。
心配かけさせておいてなにもないと誤魔化すと変に勘繰られる。
きっと相当深刻な悩みを抱えているんだって。
そうならないようにこのしょうもない悩みを打ち明けることにする。
「今日すごくお茶会に誘われたんです」
悩みを打ち明けると全員ポカーンと口を開けた。
呆然としている。
沈黙が流れた。
しょうがないので先にどういうことが説明する。
「今までも誘われることは多かったんです。ただ今日は明らかに異常でした。歩く度にどこからともなくやってきてお茶会に誘われて、断ってもまたお茶会の内容を変えて提案してくるんです」
そういう反応になるのも無理ないよなと思いながら、詳細を説明する。
どうせ打ち明けるなら誰かしら対処法教えてくれるかなあという淡い期待を抱く。
説明し終えても誰も口を開かなかった。
「えーっと、フィーナ。悩みってそれだけかな?」
アレクシスがその沈黙を切り裂く。
そして、
「それだけですけど」
アレクシスの言葉に即答した
いやだってそれしかないし。
他に悩みって言われても。
「う〜ん、フィーナ? 部外者の僕が言うのはちょっとあれかもだけど。ほんとに? その、遠慮とかしなくていいんと思うよ?」
テオに気遣われた。
どうやら遠慮していると思われているらしい。
してないし。
めっちゃ素直に悩み言っただけなんだが。
「その通りですぜ」
「ええ、フィーナ様。もしもの時は全力で力になるとお約束します」
ユリウスとシリスまでその姿勢を貫く。
どうしたもんか。
本当にないと言ったってこの空気とても信じてもらえそうにない。
泣きそう。
「……そうか。フィーナの口からは言い難いか。配慮が足りなかったな」
なにを思ったのかアレクシスは勝手に話を進める。
「カミラになにか弱み握られてるんだよね。大丈夫、いざとなったら僕らの権力を駆使して、アイツを消すから」
私は唖然とすることしかできなかった。
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