第二話 温もりにすがって

 公会堂をあとにして、アレクたちは静かに村の道を歩いていた。


 父と母が、アレクを挟むようにして寄り添う。

 乾いた風が干し草を撫で、空には淡い雲が浮かんでいた。


 沈黙が、三人の間にあった。




 __まだ、家までは遠い。


 それでも足は重たかった。

 身体よりも、心のほうがずっしりと重く沈んでいる。


 すれ違う村人たちは、彼らを一瞥してそそくさと視線を逸らした。

 顔見知りの老人も、隣の畑の青年も、幼なじみの少女たちさえも。


 アレクは俯いた。




 「アレク」


 不意に、父が口を開いた。

 低く、優しく、それでいて揺るがぬ声だった。


 「どんなに世間が騒ごうが、俺たち家族にとってお前がどんな存在かは何も変わらない」


 隣で母もうなずく。


 「あなたは私たちにとって何より大切な宝物よ」


 アレクは両親の顔を見上げる。

 二人の瞳には微塵の迷いもなかった。

 


 ──けれど。

 


 それでも、彼の胸には重いものがこびりついていた。


 耳を塞いでも聞こえてくる。


 ──「災いの子だ」


 ──「一緒にいると不幸になる」


 ──「近づかないほうがいい」


 誰かの囁きが、冷たい毒のように心を蝕んでくる。




 何も悪いことはしていない。


 それなのに。




 ぎゅっと両手を握りしめた。

 力を込めるほど、爪が掌に食い込む。



 「……僕、どうすればいいの……?」



 喉の奥から震える声が漏れた。


 父は、立ち止まって向き合った。

 大きな手がアレクの小さな肩に優しく置かれる。


「焦るなアレク。答えはこれから一緒に探していこう」


 母もまた、手をそっと握った。


「あなたの未来はまだ始まったばかりよ。大丈夫。私たちがずっとそばにいるから」


 その温もりに、ようやく少しだけ息を吐いた。





 ──家が見えてきた。


 木造りの小さな家。


 窓から柔らかな光が漏れている。


 ……ふわりと鼻をくすぐる温かな匂いがした。


 シチューだ。


 母の得意料理。

 いや、違う──この匂いは、父の作るシチューだ。


 __あ。


 「ああ、だから父さん、遅れてきたんだ……」


 感謝するように、嘆くようにぽつりと呟いた。


 公会堂に向かう前、父が一度別れて遅れてきた理由。

 それは、このシチューを作っていてくれたからだった。


 家族で食卓を囲むために。


 どんな結果になっても、帰る場所を暖かくしておくために。




 胸の奥に、じんわりと何かが広がった。


 悲しみでも怒りでもない。

 もっとずっと、温かくて柔らかいもの。


 父が笑う。


 「たくさん作ったからな。今日は腹いっぱい食おう」


 母も微笑む。


 「アレクの大好きなふわふわのパンも焼いてあるのよ」


 アレクは、小さく頷いた。


 まだ胸は重い。

 明日からのことを考えると、怖さもある。


 それでも──




 手を繋いだまま、三人は家の扉を開いた。


 温かな光と、シチューの匂いに包まれるようにして──。




▽あとがき


昨日は間違えて投稿を取り消してしまいました。すみません。

ちなみに、これから作者はアレクを虐めていくので鬱展開が嫌な人はここで切るのもありですよ。

まあ見て欲しいですけどね?



話がおかしかったりしたら遠慮なく訂正コメント下さいm(_ _)m


父 と 母 多用しすぎかも?

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