絶望に咲き乱れるゼロの復讐者
ちきん
価値無き烙印
第一話 輝かぬ才
空は、どこまでも、どこまでも高かった。
澄みきった青に、白い雲が小さく浮かんでいる。
その美しさをアレクはただぼんやりと見上げた。
隣を歩く母・ミリアが、そっと手を握る。
その背後から、父・カルドが少し遅れて追いついてきた。
力強い足音と大きな手の温もりが肩にそっと触れる。
「悪い悪い、待たせたな」
父は息を弾ませながら笑い、母も優しく微笑んだ。
アレクは小さくうなずいた。
震える足に力を込め、干し草の広がる農道を一歩、また一歩と踏み出す。
今日は、才能判定の儀の日だった。
十二歳になった子供たち全員が公会堂に集められる。
そしてそれぞれが、神から授かった「才能」を示される。
剣の才、魔法の才、治癒の才、知恵の才……。
どれか一つでも特出したものがあれば、周囲から一層の期待と誇りを集めるだろう。
才能を持たず生まれる者など、この世界にはいない。
それが、この世界に根付く常識だった。
公会堂の前に着くと、アレクは小さく息を呑んだ。
大きな木の扉。
中からは、村人たちのざわめきが重たい波のように漏れ聞こえる。
父が膝をつき、アレクと目線を合わせる。
屈強な体に似合わないほど、優しい目だった。
「どんな結果でも、お前は、お前だ。……忘れるな」
母もそっと手を握る。
「私たちは、いつだってあなたの味方よ」
胸がぎゅっと熱くなった。
アレクは小さく、でも確かに頷いた。
「……うん。行ってくる」
両親の温もりを背に受け、公会堂の扉を押し開けた。
中は、冷たく広かった。
黙した村人たちの視線が壇上の台座に注がれている。
その台座の上には、透明な球。
まるで生き物のようにかすかに脈動していた。
瞬間、アレクの喉はカラカラに乾く。
「次、アレク!」
神官の太い声が場内に響く。
淡々としたその声に温度はない。
縮こまる体を無理やり引きずり、壇上へと歩み出た。
一歩、また一歩。
背中にたくさんの視線が突き刺さる。
親しい顔も、幼なじみも、今は硬く冷たく見えた。
壇上に立つと、神官が無表情で言った。
「水晶球に手をかざせ」
アレクは、恐る恐る手を伸ばす。
細い指先が水晶に触れる。
ひやりとした冷たさが肌を撫でた。
次の瞬間──
──何も、起こらなかった。
場内に静寂が降りた。
瞬きもしないままじっと水晶球を見つめる。
剣の光も、魔法の輝きも、治癒の温もりも、どんな兆しも。
──どこにも現れなかった。
「…………」
石を落としたような静寂の中、ざわりと微かなざわめきが走る。
「どういう、ことだ……?」
「何も光らない……?」
押し殺した声が漏れ聞こえる。
神官は水晶球に手をかざし、もう一度慎重に確かめた。
しかし、どれだけ待ってもそこには一切の反応がなかった。
「……才能の、兆しなし」
無機質な声で、神官はそう告げた。
場内が凍りつく。
「全部……ゼロだってことか……?」
「まさか……」
誰かが震えた声で呟いた。
古い迷信があった。
「才能を持たぬ子は、災いを呼ぶ」と。
植物を枯らし、家畜を病ませ、不幸を呼び寄せる。そんな、誰もが笑い飛ばしていた迷信だった。
けれど、目の前の光景を前にしてざわめきは徐々に恐怖へと変わっていく。
「前例がない……」
「こんなこと、聞いたことない……」
「不吉だ……」
誰かが震える声でそう言った。
壇上に立つアレクはただ呆然と立ち尽くしていた。
両親を探して目を向けると、二人の姿が見えた。
父も母も、変わらず真っ直ぐに彼を見つめていた。
その瞳には、失望も蔑みもなかった。
ただ、痛いほどの温かさがあった。
それでも、村全体が──世界が──
音もなくアレクから離れていく気配があった。
公会堂の扉が きぃ と悲鳴を上げる。
父が、母が、手を差し伸べた。
アレクはその手を掴み、公会堂をあとにする。
空はどこまでも、どこまでも高かった。
けれど今は、どこか滲んで見えた。
▽あとがき
第一話、読んでくださりありがとうございます。少なくとも3日に1回は投稿する予定ではあります。目標200話!
そのうち、週1投稿とかになりそうです()
まあ受験期だししょうがない。許せサ○ケ。
詩チックにしたのは間違いだったかもしれない。疲れる。まあこのまま行くけど
前例が無いのに迷信が確立されてるとは驚きですねぇ(汗)
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