第30話 そこにあった


『今回の法力勝負、《くるみ割り7》の勝者はサイキ様です』



「よっしゃあー!」



「負け、オレが……なんで、オレが……」



 バリアが解除されると、キリアが飛びついてきた。



「うごっ!?」


「サイキさまー!」



 おや、柔らかくて、痛い。いや、痛い痛い痛い痛い! 苦しい苦しい!



「キリアちゃん……!? に、人間が耐えられる程度に、して!?」


「イヤです」


「な、なんで!?」


「命を賭けるってどういうことですか! 命を粗末にするなんて!」


「今してる! 今粗末にしてる!」


「じゃあ、このへんで」




 ふ、節々が……。





「おい……おい!」





 困惑と憤怒の入り混じった表情でザッピーノがゆらゆらと近づいてきた。キリアが俺を守るように奴の前に無言で立ち塞がる。


 ザッピーノはキリアに目もくれず、俺に震わせた指を指してきた。



「オレの、オレの最後のくるみを、どこにやった!」



 なんだ、最後までバレなかったのか。


 その在処を指差してやろうとしたが、それはバリアとともにすでになくなっており、気づけば指についたペンキも取れて消えていた。



「思い出せよ、ザッピーノ。俺のした行動の全てを。そうすりゃあ隠し場所に気付くはずだ」


「は、はぁ!?」




 しばらくじっと考えたあと、勘づいたように目を見開いて叫んだザッピーノ。



「わからねえ!!」



 わかったような間を作るんじゃねえよ、紛らわしい。



 するとキリアが答えた。



「あっ! ペンキの缶!」


「ご名答」



 俺は説明をつづける。



「まずだ。単純なくるみ割り勝負だと勝てないと察した。だから2人のくるみをごちゃ混ぜにしてからペンキもかけて、わからなくした。もちろんそれも狙いだが、ここでの本当の狙いは、おまえのくるみのひとつを“ペンキ缶の中に隠すこと”だった」



「あの中に、あったのか……オレの、すぐそばに捨てられたあの缶の中に」



「灯台下暗しってやつかね。あとはおまえがくるみを割っていってくれるのを待つだけさ」



「くっ! どんな生き方していたらそんな卑怯なことができるんだ!」


「野盗のおまえが言うなや」



 首を傾げるキリア。



「でもサイキさま? それなら、わざわざニセモノのくるみを用意しなくてもいいのではないのですか?」



「いいや、あれは必要なんだ。仮にザッピーノのウィンドウに残り2個と表示されているとして、その手元に2個しかなかったらどうなる?」



「同じ2個ずつ、だからとくには……あっ」



「そうだ。その状況になったときには俺が勝利していないとおかしくなる。そうなると、俺がくるみを隠していることもバレる。だから1つ、どうしても数合わせのくるみを作らなきゃならなかった。そこで最初に見つけた石ころを手に隠し持って、ペンキをおっかぶせたのさ。くるみの1つと思わせるために」



 ザッピーノが憎々しげに語る。



「その石ころを5秒未満に放ったのも、ザルを離れて被せたのも、まさか全部わざと、なのか……?」


「隠したことがバレたときの時間稼ぎに、な。見事にハマってくれたぜ」



 悔しさに蝕まれたザッピーノは地面を両拳で何度も叩く。



「くそ、くそ、くそううう!!」



「おいおい、みっともねえぜ。……しかしまあ、いい勝負はしていたよ、ザッピーノ。俺の予想じゃあ最後の2個は、俺のとおまえのとが1個ずつ残るかなと思っていたけどよ、まさか2個とも俺のが残るなんてよ。隠していなけりゃ俺の負けだった。それに最後の……あの機転の利いた見分け方、敵ながら脱帽したよ」



「…………」



「だが俺の勝ちだ。賭物をいただく」




『残念ですがサイキ様。今回の賭物ですが、獲得できません』




「ふうん。……え?」




 賭物もらえないの? なんで?

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