第1話 ギャンブラー、異世界転移する



 今日は雲ひとつなく天気のよいパチンコ日和のはずなのに、なぜ俺の心が曇るのか。



 パチンコで負けたからだ。

 これ以外にあるか。



 思い出すだけで朝に食った安い惣菜パンを口から返却してしまいそうだ。



 店の快適な空間から一歩出れば、外は夏の熱を潜伏させた暑さで、大敗した俺には少しばかりつらい気候で、家に帰っても電気代がかかるからエアコンもつけられねえ。涼しいのは俺の財布の中だけ。



「……あーあー、これから行く先々で金目のモンでも落ちてねえかなぁ……だぁー、くそっ! ……あ?」



 パチンコ店の横のせまい裏路地に、なにか光る物体が。



 ビンのキャップか? 

 


 金色に光っていて、丸くて平べったい形…………硬貨! 五百円玉!?



 俺は『羅生門』に登場するババアよりもがめつく、野良猫のように裏路地を駆け入ると地面に飛びついた。




「…………んだよ、なにかのコインか」



 これじゃあサイダーも買えねえ。


 にしても、変わったコインだな。

 見たこともない人物の顔が彫られていて、普段の感覚とは異なる妙な重み……。重み?




「まさかコレ…………金貨じゃねえのか?」




 ちょっと待ってちょっと待って…………マジで金貨かも? そうだよなぁ! このサイズでこの重さはおかしいだろよなあ! 

 

 本当にそうなら……質屋で買い取ってもらえれば今日の負け分どころか、一ヶ月分の家賃と光熱費にも相当するだろう。



「よしゃあ!! 見たか神よ!! これが俺の実力! 運命力! 逆転勝利だコラァ!!」



 拾っただけの金貨を、俺は善悪も忘れて握りしめて天にめがけてガッツポーズした。





 そんな姿を、神は見ていたのかもしれない。



――そのとき、天罰が下った。




 スマホでさっそく最寄りの質屋を調べる俺の足元に突如として、魔法陣が展開される。




そして視界は、一変した。

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