第5章: 坑道の囁き

翌朝、悠真は黒崎鉱業の坑道へ向かった。立ち入り禁止の看板を無視し、錆びた鎖を外して中へ入った。坑道は冷たく湿った空気に満ち、懐中電灯の光が岩壁に黒曜石の輝きを映し出した。壁には、奇妙な模様が刻まれている。古代の文字か、それとも単なる傷か。悠真はカメラで撮影しながら進んだ。


坑道は予想以上に深く、迷路のようだった。30分ほど進むと、広い空間に出た。中央には、黒曜石でできた祭壇のようなものがあった。表面には、血のような赤い染みがこびりついている。悠真の心臓が激しく鼓動した。これは、葵が言っていた「儀式」の場所なのか?


祭壇の周りには、古い道具やロープが散乱していた。その中に、色褪せた布切れを見つけた。よく見ると、美咲が愛用していたハンカチだった。裏には、彼女のイニシャル「M.S.」が刺繍されている。悠真は息を呑んだ。美咲がここに来ていた証拠だ。


突然、背後で岩が崩れる音がした。振り返ると、暗闇の中で誰かが動いた。懐中電灯を向けると、霧島玲奈が立っていた。「悠真! なんでここに!?」彼女の声は震えていた。制服ではなく、私服姿だ。手に持った懐中電灯が、彼女の青ざめた顔を照らした。


「玲奈、黒崎に売ったのか?」悠真の声は鋭かった。玲奈は首を振った。「違う! 黒崎は私を監視してる。昨夜は、仕方なく……。」彼女の目には涙が浮かんでいた。「葵のことも、止められなかった。私、怖かったの。」


玲奈の話によると、黒崎は町の警察に強い影響力を持ち、彼女も逆らえなかったという。葵が消えた夜、玲奈は黒崎の手下を見張っていたが、助けられなかった。「でも、悠真、信じて。ここは危険すぎる。黒崎が知ったら、二人とも……。」


その時、坑道の奥から低い唸り声が聞こえた。人間の声ではない。まるで、岩そのものが唸っているようだった。悠真と玲奈は顔を見合わせた。「何だ、あれ?」悠真が囁くと、玲奈は震えながら言った。「迷宮の声……。伝承にあった。黒曜の呪いが目覚めるって。」


二人は祭壇の奥へ進んだ。そこには、さらに深いトンネルが続いていた。壁には、黒曜石に刻まれた奇妙な図形が並ぶ。中央に、巨大な黒曜石の扉があった。表面には、「開く者は呪われる」と彫られていた。悠真は扉に手を伸ばしたが、玲奈が止めた。「だめ! 開けたら、戻れない!」


だが、悠真の決意は固かった。「美咲の答えが、ここにある。」彼は扉を押した。重い音を立てて、扉が開いた。中は真っ暗で、冷たい風が吹き抜けた。玲奈は怯えながらも、悠真の後を追った。


トンネルの先で、二人は信じられない光景を見た。黒曜石でできた巨大な円形の部屋。壁には、無数の黒曜石が鏡のように輝き、中心には血で描かれた模様があった。その上に、黒い布に包まれた人影が横たわっていた。悠真が近づくと、布が動いた。中から、青白い手が伸びてきた。


「佐倉……悠真……。」弱々しい声が響いた。それは、三浦葵だった。

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