第4章: 裏切りの霧

葵の行方不明という知らせに、悠真は言葉を失った。昨夜、彼女の部屋で男たちの声を聞いた直後のことだ。警察の刑事――中年の男で、名は高田と名乗った――は、悠真を旅館のロビーで尋問した。「三浦葵と何を話した? 彼女が何か危険なことに首を突っ込んでたんじゃないか?」高田の口調は高圧的で、まるで悠真が容疑者であるかのようだった。


「葵は黒曜事件について話してた。美咲のことも。」悠真は正直に答えたが、坑道や「迷宮」の話は伏せた。まだ、誰を信じていいのかわからなかった。高田は鼻で笑った。「黒曜事件か。20年前の話を持ち出す奴は、頭がおかしいか、問題を起こしたいだけだ。佐倉さん、余計な詮索は控えなさい。」


高田が去った後、悠真は玲奈に何度も電話をかけた。ようやく繋がったのは夕方だった。「悠真、ごめん、忙しくて。」彼女の声は疲れ切っていた。「葵のことで話したい。警察署に来てくれ。」玲奈の言葉に、悠真は苛立ちを覚えた。「葵が消えたのは、黒崎の手下のせいかもしれない。玲奈、知ってることを教えてくれ!」


電話の向こうで、玲奈は長い沈黙の後、言った。「今夜、港の倉庫街で会おう。9時。そこなら、話せる。」彼女の声には、どこか諦めたような響きがあった。


港の倉庫街は、霧が特に濃い場所だった。9時ちょうど、悠真は指定された倉庫の前に立った。玲奈はまだ来ていない。代わりに、倉庫の影から別の人物が現れた――黒崎恭一だ。「佐倉君、夜の散歩か?」彼の微笑は、まるで蛇のようだった。


「玲奈はどこだ?」悠真が問うと、黒崎は肩をすくめた。「霧島刑事なら、急な仕事で来られなくなったよ。私が代わりに話を聞こうと思ってね。」悠真の背筋に冷たいものが走った。これは罠だ。黒崎が続ける。「君は賢い子だ。だが、賢すぎると命を落とす。美咲君も、そうだった。」


「姉のことを知ってるのか?」悠真が一歩踏み出すと、黒崎の背後から二人の男が現れた。黒い服に身を包み、顔は見えない。「佐倉君、町を去りなさい。でないと、葵君の二の舞になるよ。」黒崎の言葉に、悠真は拳を握りしめた。だが、男たちが近づいてくるのを見て、逃げるしかなかった。


倉庫街を走りながら、悠真は玲奈への疑念を抑えきれなかった。彼女はなぜ黒崎に知らせたのか? 裏切ったのか、それとも……。考えを整理する暇もなく、背後から足音が迫る。路地に飛び込み、息を殺して隠れた。男たちは通り過ぎ、霧の中へ消えた。


その夜、旅館に戻った悠真は、美咲の日記をさらに読み進めた。「6月25日。黒崎の部下が、夜中に坑道で何かやってる。葵と一緒に見に行こうとしたけど、彼女が怖がって止めた。美咲、絶対に何かある。黒曜石のせいだ。」日記の最後には、震えた字でこう書かれていた。「誰か、助けて。」


悠真の胸が締め付けられた。美咲は、恐怖の中で何かを追いかけていた。そして、それが彼女を消した。悠真は決意した。坑道に行くしかない。そこに、すべての答えがある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る