梨央の場合
プロローグ - 電気ポットという名の人生
ここは天界。輝く雲海が広がり、どこか荘厳な空気が漂う中、一角には独特な家庭感が漂うスペースがあった。煮物の香りがふわりと漂い、小さなキッチンでエプロン姿の女性――転生の神・福代が鍋の蓋を開けていた。「いい感じね、醤油の量も絶妙だわ。」と満足げに呟く彼女は、転生業務をバイト感覚でこなす主婦の神様だった。
「さて、今日の転生者はっと。」福代は手元の転生管理システムのパネルに目を向ける。表示されたリストには「梨央」と名前があり、彼女の希望が記されている。**「猫になりたい。自由気ままな生活を送りたいです!」**という希望に、福代は思わず微笑んだ。「猫かぁ、いいわねぇ。かわいいし、気ままだし最高じゃない。」彼女は、転生準備を進めるべく軽快にパネルを操作し始めた。
しかし、煮物の香りが再び福代の鼻をくすぐる。「あれ?ちょっと醤油足りないかしら?」ふと鍋に手を伸ばした瞬間、彼女の指がパネルのボタンを押し間違えてしまう。**ピッ!**画面に表示された「転生先: 電気ポット」という文字に、福代は気づきもせず「ああ、いい匂い!」と煮物に集中していた。そして、鍋に満足した福代はそのまま転生ボタンを押してしまう。「ポット?まぁ、温かいし楽しい人生になるわよね。」と軽い気持ちで転生を完了させてしまうのだった。
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異世界の小さなキッチン。棚の上で目を覚ました梨央は、自分の姿を見て言葉を失った。「え、ここどこ?…いや、待って。なんで私、ポットなの!?」輝く金属製の身体、ぴかぴかした外見に加えて、お湯を沸かす機能を持つ電気ポット。その現実を受け入れるには時間がかかりそうだった。
「猫になるはずだったのに!」と叫ぶ梨央。そんな彼女の前に突如光の柱が現れる。柱の中から現れたのは――例のエプロン姿の福代神。「はいはい!転生後の様子を見に来たわよ!」と元気に話しかける彼女に、梨央は呆然としたまま問い詰める。「なんで私がポットなの!?猫になるって言ったよね?」
福代は悪びれる様子もなく、「あら、ちょっとミスしちゃったみたい。でもね、ポットも素敵よ!温かいお湯でみんなを幸せにしてあげられるんだから!」と楽天的に答える。梨央は頭を抱えながら「いやいやいや、どうやって生きろって言うのよ!?」と叫ぶが、福代はポケットから電源コードを取り出し、「これで動けるようになるから!」と無責任に渡してきた。
こうして、猫になりたいという夢は叶わず、電気ポットとしての異世界ライフが幕を開けた――。
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