第15話 人の街



「久しい光景ですね。」


 俺たちを乗せた馬車は、王様の城がある首都ピエロの大きな住宅の前で止まった。

 「よく来たわね!さっ早く上がって上がって。」


 住宅の扉をノックすると、豪華な衣装に身を包んだナディアさんが、扉を開け出迎えてくれた。聞くところによるとナディアさんは、強い権力を持つ家の息子らしく、今回は女王様とシルヴィのドレスへの着替えと入浴のために使わせてくれることになった。


「あなたたちがマーメイドの二人ね。ミシェルお二人を浴室へご案内してあげて。お湯は使わないよう気をつけなさい。」


「かしこまりました。」


 ナディアさんがメイドさんに命令をすると、メイドさんは車椅子を押して部屋の奥へと向かっていった。

「さっ!あなたたちも早く着替えちゃいなさい!」


「えっ?」


「えっ?じゃないわよ!そんな格好で城の中を歩くつもり?ダメよそんなの!」


 俺とクロはナディアさんにされるがまま俺はタキシード、クロはドレスへと着替えさせられた。

「コナーかっこいい!馬子にも衣装ってやつだね!」


「一言余計だ。クロも……その……似合ってると思う。」


「ありがと!」


 俺とクロが慣れない会話をしていると女王様とシルヴィが豪華なドレスに身を包み奥の部屋から現れた。

「……綺麗。」


 俺もクロも見とれてしまい大した言葉が出てこなかった、それほどまでに二人の姿は美しかった。

「お着替えも終わったことだし、私の役目はここまでね。ちゃんと女王様たちをエスコートするのよ。ジョゼフさんもね!」


「わかってるわかってる。あー酒飲みて〜。」


 ナディアさんがジョゼフさんの名を呼ぶと奥の部屋からタキシード姿のジョゼフさんが現れた。普段なら顔を赤くして虚ろな目をしているジョゼフさんだが流石に酒を抜いているらしい。


「ナディアさん。シルヴィ共々大変お世話になりました。このお礼は必ず。」


「お礼なんていりませんよ。もしどうしてもお礼がしたいというのなら、今日の会談を絶対成功に終わらせてください。私にとってそれが何よりのお礼です。」


「わかりました、今回の会談で人種と魚人の親睦を深めると約束します。」


 ナディアさんと女王様が話を終えると、再び俺たちは馬車に乗り城の前へと向かった。


「お前たちここに何用だ!ここはドラン王の城である!」


「教皇様が王子と話す許可をとってくれてると思うんだが。」


「我々にそのような話は回ってきていない!」


「そちらの伝達ミスという可能性は?」


「断じてない!貴様ドラン王直属の我らをバカにしているのか!」


 険悪なムードに場がピリついている。

「チッタヌキのやろう、わざとだな。おい、お前ら後ろに下がるぞ。」


「なんだ、ようやく帰る気になったのか。」


 全員で門から離れ距離をとるとジョゼフさんが門へと向き直った。

「お前ら耳塞いでおけ。スゥー……マルク!出てこい!お前に大事な話がある!」


 ジョゼフさんに言われた通り俺たちが耳を塞ぐのを確認すると街中に響くほどの大きな声で恐らく王子の名前を呼びつけた。


「お前!!全員で取り抑えろ!」


 ジョゼフさんの大声に反応して門の中からぞろぞろと兵士が現れた。

「お前らやめろ、私の友人だ。」


「マルク王子!」

 俺たちのことを兵士が取り抑えようとしたその時、突然目の前に白い軍服を着た男が現れた。男が現れるとその場にいる兵士全員が膝をつき頭を下げた。

「ジョゼフ、流石にやりすぎだ。それほど大事な要件なんだろうな。」


「あぁ大事な話だ。」


「……わかった応接間へ案内しよう。」


 俺たちを引き連れマルク王子は城の中を歩いた。

「マルク王子!これはなんの騒ぎだ!」


「あなたには関係のない話だ、ラビエ教皇。」


「関係ないだと……!お前は……ジョゼフ!?マルク王子、どうしてもその男どもをこの先に通すというのなら、私もその話し合いに参加させていただきます、よろしいですね。」


「構わん、好きにしろ。」


「どうぞお腰掛け下さい。」


 応接間に案内され各々が王子の言葉を待ち、椅子に腰掛けた。

「それで、ジョゼフ話とはなんだ?俺も暇じゃない早く済ませろ。」


「話があるのは俺じゃなくて、こちらのお方だ。」


「本日はお時間をいただきありがとうございます。私の名前はレティシア・サンテール。サンテール王国で女王をさせていただいています。」


「サンテール王国?確か大昔に海に消えた国の名前ではなかったか?」


「そうです、私たちの国は海に飲まれました。ですが私の父ロジェ王の魔法で我々は海中でマーマンやマーメイドの姿で生活をするようになりました。」


「マーメイド?失礼ですが人の足をしているように思うのですが?」


「今からその証拠をお見せします。なにか下を隠す大きめの布をいただけませんか?」


 王子はすぐにメイドに命令してカーテンのような大きな布を持ってこさせた。

「コナー?車椅子を皆さんに見えるよう少し下げていただけるかしら。」


「お母様!私がやります!何もお母様がやらなくても!」


「ダメよシルヴィ、言ったでしょ他の子達に二度とあんな辛い思いさせたくないの。それにあなたは痛い思いしてまで一緒に来てくれた。それだけで感謝してるわ。」


 涙を流すシルヴィが女王様から離れると、俺は言われた通り車椅子を後ろに引いた。

「では今から私がマーメイドである証拠をお見せします。シェイプシフト!」


 女王様が魔法を唱えると体がメキメキと音を立て変化していく。二本の足が一つに纏まり、魔力によって肉と鱗が生成されていった。

「あぁぁぁぁぁぁ!!」


 女王様の言葉にならない声が部屋内に響いた。誰もが目を覆いたくなるようなその光景は数分間続いた。

 

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