第3話 異世界温泉の従業員が従業員になった理由Ⅱ
「あの子はね。盗賊ギルドの下っ端をやっていたのよ。」
盗賊ギルド?
そのまま言うなら、盗賊の集まりの下っ端として働いていた?
「あの子は素早いし、本人もこっちを向いているって思ったからここで働いてくれているのよ。」
だれに対しても敬語で敬うような口調のセラさんがフィズちゃんの事を『あの子』って呼ぶのはすごく珍しいんじゃないのか?
「先ほどもフィズちゃんがセラさんの事を『姐さん』と呼んでいましたが、セラさんがフィズちゃんの事を親しく呼ぶのもその盗賊ギルドが関係してますか?」
「ええ。フィズは今、19歳なんです。見つけたときは16歳で成人したばかりでした。生まれたときからそこで育っていて、
忌み子とは望まれずに生まれた子供。
忌み嫌われるとは強く嫌悪感を持たれることだ。
かなり酷い扱いを受けていたんだな…………。
+*+
~3年前~
<グエンさんが入って次のお休みの5日間の時>
「このような大きな市場は初めてですか?」
私はグエンさんを連れて少し離れた大きな市場に来た。
「
すごく楽しそうなのが見てわかる。
「お金をください!少しでいいんです!お金をくださいっス‼」
通行人に向かって一人一人そう言ってお金を集めようとする獣人の子がいる。
「
家が貧しくお金がない人は人にお金を恵んでもらうためにお金を求めることがある。
だが、それは大体道の端でしか見たことがない。
「…………………。」
色んな人に話しかけ、私のところに来た。
「お金をくだ……」
「いいわよ。でも、少しこちらに来なさい。人がいる場所でいいのよ。端にずれましょう。グエンさん。1時間後にこちらに来てください。」
私は
完全に怪しい人ですね。
「あ……あのぉ………。」
「完全に怪しい人が言う事ですが、怪しいものではないです。あなた、道行く人にから少しずつお金盗んでません?」
この子は「お金ください!」と話しかけては素早い速度で少しお金を盗んでの繰り返しだ。
「気づく人がいたんスね。騎士団に引き渡しっスか?」
やけくそのような吐き捨てるような口調での話し方だった。
逃げる気はないようでおとなしい。
「まあ、質問の回答の内容によりますね。」
「引き渡すなら条件付きっス。あと、答える気はないっスよ。」
「わかったわよ。あなたはなぜ歩いてお金を求めていた?盗むため?違うでしょう?」
「……………………。」
宣言通り答える気はなさそうですね。
「そうですねぇ………。私が、歩き回りながら人々にお金を求めるとするなら、遠くに行きたいけど、お金も必要ってときとかですね。でも、それにしてはあなたの荷物は非常に少ない………。」
荷物はおろか服もボロく白いワンピースのような薄い布製の服を着た子供。
「次に思いついたのはお金が必要だけど追っ手が来ているとかですか。」
「⁉」
ただ予想を言っただけなのに驚いて後ろに後ずさる。
「あいつらの仲間っスか。終わりっすね。通りで引き渡しに行かないっス。」
どうやら本当に当たりらしいわね。
「…あいつらって誰の事ですか?」
「とぼけんなっス‼でも、フィオ達は………。」
…フィオさんは兄弟…弟、妹ってところですかね。
家族のためにお金を盗む………ってところだけでもなさそうな気がするけど。
「ですから、追っ手ではございません。ところで先ほどの騎士団に突き出すときの条件とやらを聞きたいのですが?」
フィオさんが弟、妹が当たっているならそのあたりの願いになるでしょうけどね。
「………。本当に追っ手じゃないんすね?」
「期待に添えなくてごめんなさい。」
頭を下げるセラ。
「頭を上げるっス‼むしろそれは期待に答えるなっス‼」
「ごめんなさい。…条件は……。」
「弟と妹を保護してほしいっス。フィーを騎士団に届ければお金が入るはずっス。それを使って必ず「ほのかの家」という児童養護施設に全員預けるっス。」
ほのかの家……。
懐かしい名前ですね。
「わかりました。」
今のところ騎士団に受け渡すつもりはないけれど、一応この子の状況を聞いておいた方がいい気がしますね。
「あなたはなぜこんなことをしていた…答えられる範囲でよろしいですのでお願いします。」
「………。フィーは盗賊ギルドの下っ端っス。もともと忌み子のような存在ですが、両親からは愛されていたことは分かってたっス。ギルドからの嫌われ者のフィーたちは無理な仕事をさせられているっス。弟、妹はまだ十二歳以下なんで何もやってないっスが、いつか金儲けの駒にされるっス。そうなる前にフィーが捕まってでも安全な場所に避難させてやりたいっス。」
かなり兄弟想いな子ですね。
「わかりました。あなたの
「十六っス。」
「十分働けますね。あなたの素早さを生かして、我が温泉で働きませんか?」
盗賊ギルドという鎖はあるが、有名なここで働いている経歴があれば、
「我が温泉?」
「我が温泉は湯ノ瀬温泉と言います。名乗り遅れました。湯ノ瀬温泉経営者のセラと申します。あなたをスカウトしたいです。」
「湯ノ瀬温泉っスか⁉上の人達がよく行くと噂が立ってる所っスよね⁉」
うちに盗賊ギルドのお客様がよく来ていらっしゃったとは。
そちらは騎士団行きになりますかね。
「とてもハードになりますが、給料は弾みます。そしてほのかの家に必ずごきょうだいをお連れします。」
「本当に良いっスか⁉でもそれはフィーを騎士団に連れて行く時の条件で……。」
「そうですね。ですが、社員の家族をそんな危険な場所に置いておくわけにはいかないし、それに!ごきょうだいたちも大きくなったら温泉の力になっていただきますからね!」
「‼いいんっスか⁉」
「いいですよ。ああ、うちの社員は私と先ほどのグエンさんだけですし本当にハードなので、人手が増えるのに喜ぶ以外の事がありません。」
「あのムキムキさんだけなんスか⁉ブラック⁉」
「二か月前に入った新人ですし、前は一人で経営してたので何とも………。」
少し早いですが、グエンさんと待ち合わせの場所に向かうことにした。
おまけ
〖グエンさんとの待ち合わせ場所で〗
「お名前伺ってもよろしいですか?」
先ほどから一人称が『フィー』でしたし、その辺のお名前と思いますが…。
「フィズっス!フィズって呼んで呼び捨てでほしいっス。」
「素敵なお名前ですね!フィズは何人きょうだいですか?」
「弟が四人妹が四人っス。姐さん、騎士団のお金をもらわず施設に入れられるんスか?」
「うちは大きいですし、雇い人も一人なのでお金だけはたんまりあります。それに、ほのかの家は私の妹と義弟が建てましたからまけてくれると思いますよ。」
「え⁉ルナさんとソルさんってセラさんの兄弟なんっスか⁉」
「そうなんです。フィズさんによっぽど「ほのかの家」が信頼されていてうれしいなって思いました。」
「ルナさんとソルさんにはよくご飯をもらったのでお礼を言いたいっス。…ついて言っても良いっスか?」
「?もちろんよ。仕事がある日は難しいかもしれないけど、お休みの日は言ってきて構わないです。むしろ転移魔法で一瞬で送る事も可能ですよ?」
「!ありがとうっス‼」
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