終章 再生
1話 最後の崩壊
最終崩壊域――かつてノワヴィスに守られ、誰も踏み入れることのできなかった、神の悪夢の中心領域。
前作戦で適応者たちがノワヴィス討伐を終えた直後、本部はこの崩壊域の活性化を確認した。
本部はすぐに斥候を送り、崩壊域の調査を行った。
この領域では、並の適応者は精神を保てないと判明した。
瘴気濃度、精神干渉の強さ、そして崩壊の激しさ――
それらすべてに高水準で適応できる唯一の戦力、それがセリオス小隊だった。
崩壊域に立ち入った瞬間、彼らは異変を感じ取っていた。
「……なんて強い精神干渉だ」
ライゼの目が、頭上を仰ぐ。
空間はゆがみ、境界が溶け出している。
空とも大地ともつかぬこの領域では、風もなければ重力の感覚すら不確かだった。
「……ここが、全ての崩壊の中心……」
ミレアが呟いた声も、空気の振動にすぐ吸い込まれる。
音が沈む。気配が沈む。
生きている実感さえも、少しずつ削られていくような空間だった。
「っすげぇ……さすがに、俺もちょっと気持ち悪いっす……」
シュリオが額に手を当てる。
「浮いてる感覚……足元はあるのに、踏んでる気がしねえ」
ガルドも珍しく低く呟いた。
だがセリオスは、表情を変えなかった。
静かに、周囲を見渡す。
「ここが、最後の神の悪夢……」
その言葉に、ライゼがわずかに振り返った。
「記録……できるのか、こんな場所でも」
「記録する。たとえそれがどこであろうとも」
セリオスは前へ踏み出す。
彼の周囲に、ほんの僅かに“反応”が現れる。
黒と白の波が、揺れるように彼を避けて動く。
まるで彼の存在そのものが、“記録者”として認識されているかのように。
その時だった。
「っ……っく、これは……!」
ミレアが肩を抑えて膝をついた。
同時に、ガルドとシュリオも顔をしかめる。
「頭ん中に……誰かの声みてぇな……!」
「違う、これは……映像っす……記憶が、流れ込んで……!」
セリオスの視界にも、闇が流れ込んだ。
滅んだ大地。崩れ落ちる街。
声なき咆哮。燃え尽きた祈り。
かつて彼らが倒してきた、六体のノワヴィスたちの影が――
その断片が、重なり合って押し寄せてくる。
(……これが、神の記憶)
(いや、神の“悪夢”か)
セリオスは瞼を開けた。
目の前の空間に、微かな“目印”が現れていた。
彼にしか見えない記録点。
おそらくここが、神の夢の中心部へ至る“記録座標”なのだろう。
「進むぞ。ここは……記録の入口だ」
その言葉に、誰も答えなかった。
だが全員が、同じように歩を進めていた。
その背中に、セリオスは微かに光を感じた
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