2話 ぶつかる信仰
乾いた枝を踏みしめる音が、森の沈黙に溶けた。
セリオスは、崩壊の“深度”が増す方角へ、ためらいなく歩を進めていた。
その背後には、白布の装束――エクロールたちが、距離を保ちながら黙ってついてきていた。
やがて木々が途切れ、開けた岩場に出る。
そこに“それ”はいた。
巨躯を持ち、羽を閉じてじっと佇む、異形。
フクロウにも似たその姿は、鋭く大きな目をこちらに向けていた。
ただ立っているだけで、空間がざわめき、意志を持って揺らいでいる。
(……あれが核だな)
セリオスは背中の剣に手を伸ばす。
その気配に、後方のエクロールたちが小さく息を呑む。
言葉にこめられた確信が、沈黙の森に深く響いた。
「ですが……祈りは、神へ届きます」
エクロールのひとりが、躊躇いがちに口を開いた。
「異形は神の不安の現れ。我らはその不安を受け止め、鎮め、神と調和する道を……」
「ならば、見ていろ」
セリオスは静かに前へ出た。
フクロウ型の異形が、わずかに羽を広げる。
その動きに反応するように、空気が震えた。
セリオスは剣を抜き放ち、地を蹴る。
一瞬で間合いを詰め、斬撃を叩き込む。
異形の巨大な爪が空を裂き、風圧が背後まで及ぶ。
だが、セリオスは怯まない。
一太刀、また一太刀。
核を求めて、寸分の迷いもなく斬り込んでいく。
(……見せるんだ)
ただ祈るだけでは届かないものがある。
それを、行動で証明する。
最後の一閃が、異形の巨大な瞳を貫いた。
悲鳴すらあげず、異形は崩れ落ちる。
その残滓が、空間に静かな波紋を広げていく。
そして、ほんのわずかに――
草の芽が、ひとつ、大地を割って顔を出した。
「……これは……?」
エクロールのひとりが、息を呑んだ。
「浄化だ」
セリオスは背を向けたまま答える。
「異形の核が砕け、神の不安が消えた。だから、世界が息を吹き返しはじめる」
白布たちは、何も言わなかった。
ただ、沈黙のままその光景を見つめていた。
信じていたものが揺らぐ音が、風の中にかすかに混じっていた。
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