第46話 頼もしき旧友たち、きたる
……結果は認めなければならない。
俺のパンは彼らの心には届かなかったのだと。
たとえ八百長かもしれなくとも、事実は事実なのだ。
村長からこの勝負の危険性は既に聞かされていた。
それでも挑んだのだから俺の責任に他ならない。
ただ、せめて心に残るパンを焼こうと思ったのだが、それも叶わなかったようだ。
とても、残念でならないよ。
「そぉの勝負、ちぃと待ったらぁーーーーーーッ!!!」
――ッ!?
ま、まさかこ、この声は!?
道の向こうから二人の人影が近づいてくる。
しかも前に立つ人物……あの顔を俺は知っている!
あの褐色の肌と黄色い髪。
そしてエルデさえも超える大きな胸囲の持ち主を。
「まさか君は、ラクシーニュかっ!?」
「おーおー、そうゆー君はあのリアンやーん! あれまぁ随分と老けちゃってぇ~!」
ああ、やはりそうだったか。
忘れられる訳もないよな、特にあの胸のインパクトは。
しかも歳を食った今でも変わらないとは、本当に懐かしい。
「やだもぉ! しょっぱなからオッパイ凝視すんのやめーやぁ!」
「し、仕方ないだろう! 面積的に視線が行きがちになるんだよ!」
「くひひっ、そこんとこ変わらんねぇ~!」
そのいじらしく笑う仕草を見せる君もな。
しかも自慢の胸を張ってアピールするから、他の男性諸氏からも視線を集めているぞ?
「お、おい貴様! 一体どういうつもりだ!? 僕たちの勝負に水を差すつもりか!?」
「あぁ~うん、差すよぉ、めっちゃピュッピュ差すよぉ~!」
「コイツふてぶてしく……! 何の権限があってのつもりだ、どこぞの馬の骨風情が!」
「……ほう、我を馬の骨風情と宣うならば貴公はよほどの位の者なのだろうな」
「えっ?」
おまけに、連れてきた奴の破壊力がとんでもないな。
まさか皇帝フェンディア本人を引き連れてくるとは。
確かに旧知の仲だが、今の立場で相容れない者同士が揃うとは思わなかったぞ。
「こっこここ……」
「皇帝陛下!!??」
「「「皇帝陛下だって!?」」」
さすがの審査員たちもフェンディアの顔はわかったようだ。
その顔を見た途端に青ざめ、ジーデルと共に跪き始めた。
「こ、これは大変とんだご無礼を……!」
「よい。此度は個人的な用があって来ただけだ。よって立場を気にする必要はない」
「あ、ありがたき幸せ……」
本人はこう言っているが、顔にはハッキリ不愉快さが出ているな。
あ、いや違う、これは単に皇帝扱いされるのが面倒だと思っている顔か。
「まさかフェンディアまでもが来るとは思わなかったよ」
「お、おい貴様! 皇帝陛下を呼び捨てとは無礼な!?」
「あ”!?」
「ヒッ!?」
「古くからの友人に会うのに何の無礼がある? 立場を気にするなとは言ったが、道理は弁えよ痴れ者が」
「も、申し訳ございません……」
おぉおぉ怖い怖い。
まぁ何も知らずに口を挟んだ彼ら側が悪いのだが。
あのギルドマスター、今ので相当な悪印象を得てしまったな。
「お前が面白そうな催しをすると、そこの化け乳に聞いてな、いてもたってもいられなかったのだ」
「ちょい待ちぃ! なんやその言い草は!」
「聞けばパン対決というではないか。だから面白そうだと思い、参加するために参じたのだ」
「無視すんな鉄板!」
「遅れてしまったのはあいつの身支度に時間がかかったせいだ。よって責任はあいつ自身が取る」
「オイィィィ!!? フェンディも髪整えるのにめっちゃ時間かけてたやんけェ!!!!!」
「「なんだとこの化け乳/鉄板が!!!!!」」
……この取っ組み合いも本当に懐かしい。
まるで昔に戻ってしまったみたいだ。
二人も相変わらずみたいで、俺は嬉しいよ。
でももう少し早く会いたかったな。
今は気落ちし過ぎて喜べる気持ちにはなれないから……。
「おいリアン、そう気落ちするのは早計であろう」
「え?」
しかしフェンディアがラクシーニュを押しのけつつ、俺を真剣に見つめてくる。
それでいて「フンッ」と鼻で笑い、審査員たちを横目で眺め始めた。
「遅れた身で言うのも憚れるが、この勝負がついたとはまだ言えぬ。なぜならば公平性に欠いているからだ」
「「「なっ!?」」」
「そこの3人はジーデル・ベネットと深い関わりがあるという調べが付いている。身内を審査員にするとは随分な手の込みようだな?」
「そ、それは……」
「仮にも職人ならば不利を押しのけてこそであろう。故にその格差を埋めようと我らが来た」
そうか、二人ともジーデルたちの策略を見抜き、わざわざ来てくれたのか。
とてもありがたい話だ。
「よって我ら二人も審査に参加する。異論は無いな?」
「「「は、はい……」」」
さすがに立場を無視できようとも、フェンディアの言い分までは無視できなかったようだ。
審査員の3人もジーデルも頭を下げる他ない。
「ま、まさかの事態ですが勝負は延長戦に突入! 皇帝陛下とそのお仲間が審査員に加わりましたぁ! ではさっそくお二人のパンを食していただきましょう!」
あらかじめ多めにパンを焼いておいて正解だった。
ジーデルも同様だったようで、安堵で胸をなで下ろしているな。
「では、これを」
「うむ、いただこう」
「ほなら、はむっ……んーっ、うまいやーん!」
おいおいラクシーニュの奴、二つ同時に食うやつがあるか!?
それで味がわかるのかよ……。
一方のフェンディアはどこから取り出したのか、ナイフで切り分けてフォークで食べている。
しかも鎧姿で立ちながらとは随分と器用なことをするものだ。
「はいはーい、ウチはリアン派~!」
「判定速いな……」
「おおっとぉ、これでリアンさんに一票で現在は3対4となりましたぁ!」
ラクシーニュがぴょんぴょんと飛び跳ねて手を挙げていてみっともない。
彼女は本当に暗殺者ギルドの頭領なのか? 見ているこっちが恥ずかしくなりそうだ。
「ふむ、このロールパンは香ばしさとしっとりとした風味が舌を通して伝わってくる。皇宮で扱っても遜色ない出来と言えよう」
「おお、ありがたき幸せにございます」
「一方のリアンパンもなかなかだ。素朴ながら優しい舌触りと香味に溢れている。さらにはフィリングにも凝っているのがわかるな。トマトをベースにしたソースはパンの味を引き立たせるよう控えめだ。パンの味を理解せねばこうはできまい」
「ああ、ここで採れる野菜の持ち味を活かした味付けにしてみたんだ」
「うむ。どちらも負けず劣らない逸品と言えよう。なかなか甲乙付け難いな」
ラクシーニュと違い、フェンディアの意見はやはり公平性を富んでいる。
これならどう結果が転ぼうとも悔いはない。
さて、君はどう答える、フェンディア?
j引き分けか、それとも俺の負けか……。
「……答えは出た」
「おっとぉ! ついに皇帝陛下が判決を下します! 果たしてその結果とはぁーーー!」
皆が息を呑む。
俺も時が止まったように感じた。
いっそこのままでいてほしい、そう願ってしまうほどに。
「味が優れているのは――ジーデルのパンだ」
だが、現実はそうともいかない。
勝負の世界とは得てしてこんなものだ。
実力があるからこそ評価される、そこに格差も何も存在しないのだと。
俺の実力が届かなかった、ただそれだけなのだ。
「……そう、味はな」
「「「えっ?」」」
でもふと見上げた時、フェンディアが鋭い目を輝かせているのが見えた。
しかも視線は勝者であるジーデルと審査員たち3人に向けられている。
フェンディアはいったい何を考えている?
まさかパンに求められるものが味以外にあるというのか……?
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