第32話 エセ暗殺者の次にやってきたのは
「「「ホンットすいませんっしたァァァーーーーーー!!!!!」」」
屈んで覗き込む俺に、大の男3人組が揃って涙を流して謝ってくる。
まぁ半日近く冷たい地面に埋められていたら泣きたくもなるのは当然だろうけど。
だが人に迷惑をかけ、物騒なことをしたのも事実な訳で。
「実は俺たち、過去の犯罪行為が露呈したせいで冒険者ギルドを追い出されちまいましてね……」
「何となくそうかなって察していたよ」
「そ、そうっすか……」
「けどそれであんなことしていいなんて理由にはならないよ?」
「「「う……」」」
過去に何があったかまでは知らない。
しかし興味も無いし同情もしない。
巻き込まれたこっちとしてはただ迷惑なだけだ。
「ま、明日の朝までそこで大人しくしているといい」
「そ、そんなぁ!?」
「自業自得だろう。君たちのやったことはそれくらい罪が重い行為なのだから。これがル=メギアの役人にバレてもみろ、どうなるかくらいは想像もつくだろう?」
「うぐ……」
むしろこの程度の罰で済んで感謝してもらいたいくらいだ。
法律に厳しいこのル=メギアにおいては、街中での抜刀と戦闘行為は即断罪すらありうる凶悪犯罪扱いなのだから。
しかしコナリア村にその兵士すらいない以上、代わりに俺や村民が罰を下さないとならん。
だからと立ち上がり、去ろうとしたのだが。
「ままま待ってくだせぇ! 俺たち本当に反省したんですぅ! もうこんなことは絶対にしませぇん! 真面目に働いて生きていきますぅ! 神に誓ってもいいっ!」
なんだか彼らも必死だ。
暗い中でもうなりふり構わず喚き散らしていて見苦しいぐらいに。
そういえばさっきエルデとも何かを話していたが、何かあったのだろうか?
「それなら話次第では情状酌量を与えてあげてもいい。例えばだけど、君たちに暗殺を命じたのが――」
「ダンダルトの奴だ! あの元侯爵の! アイツが追放された俺たちに声を掛けてきてアンタの暗殺を頼んできたんだっ!」
「そうなんですぅ! リアン様を殺したら便宜を図ってやるって言ってきてぇ!」
「でもこんな強い相手ならら引き受けるんじゃなかったぁ~~~!」
こうも簡単に首謀者を吐くなんて、予想以上に堪えているみたいだな。
良くも悪くも、彼らはアサシンギルドなんて相応しくないくらい小物なのだろう。
そうわかると、再び彼らに向き合って溜息を一つ。
「じゃあもうこの村と関わらないと誓うか?」
「当然ですよおっ! あんな女のいるトコなんて御免だぁ!」
「オレらはきっと冒険者にすら向いてなかったんだろうな……」
「だよな、もう故郷に帰って細々と暮らそう……」
「わかった。なら今回のことは国に報告しないでおいてやる。だがもう二度と罪を犯すなよ? 帰る家があるなら、真面目にコツコツ働いてまともな生活をするんだ、いいな?」
「「「へいっ!」」」
……人ってこう簡単に変われるものなのだな。
襲撃の時はいかにも悪人面だったのが、今では純粋に目を輝かせている。
エルデにどう脅されたかは知らないが、きっとよほどキツかったに違いない。
半ば同情しながら彼らを雪の中から出してやる。
そうすると3人は出てきた所で深々と頭を下げ、感謝を述べながら夜の道を歩き去っていった。
まったく、俺も甘い男だな。
「フン、いっそあのまま凍死してしまえばよかったものを」
「エルデ……君はまた何か余計なことをしたのか?」
そんな3人組を見送っていると、またいつの間にかエルデが背後に。
俺を上目遣いで睨みつつ、肩にどしりと腕ごともたれかかってきた。
「なに、一つ呪ってやっただけだ。もし今後ふたたび我らに危害を加えようと画策でもすれば、即座に醜悪な姿の魔物へと変質するようにな」
本人は「クシシ」と笑って楽しそうだが、俺からしてみれば頭の痛い話だ。
まさかここまでされて復讐なんて考えはしないだろうが、やり過ぎるのもな。
「エルデ、あまり派手にやり過ぎるなよ? 調子に乗るとお前の正体がバレかねない。魔法を教えることさえ割と危ない橋を渡っているんだから」
「そうなのか? うぅむ、人間のルールというものは未だ理解しがたい」
「ルールじゃなく直感力の問題だな。人ってのは察して連想しやすい。逆に言えば、目立つ相手には妙な誤解さえ抱きかねないんだ。龍が人間を敵だと思い込んでいるようにな」
「それは人間だって同じだろう!?」
「そう、同じだ。つまりはそういうことさ」
「あー……」
知性があるってことは誤解も抱きやすい。
人も龍も、その誤解さえなければきっとわかりあえるはずなのだが。
軽く説得して話を済ませ、エルデを支えつつ体を離す。
それで村の方へと親指を差し、彼女に微笑んで見せる。
「それよりもちょっと酒でも飲んでこないか? 酒場のマスターにお呼ばれしているんだ」
「酒かぁ!? ンフフフッ! 私を誘うとはいい心がけだ!」
「急な教師代役だったからな、お礼に今日の分は奢らせてもらうよ」
「ほほう、貴様もようやく私に対する敬意というものがわかってきたようだな!」
「来たばかりの時にも奢ったの、もう忘れているんじゃないか?」
「あっははは! しらーん!」
相変わらずの横暴な言い分だが、今にも鼻歌を歌い出しそうなほどに機嫌はよい。
お酒の誘いもだが、昼間に注目を浴びられたのも気分がよかったのだろうな。
……それにしても、いつの間にかこんな笑顔が普通になったものだ。
馴染んできた証拠かな?
「よし行くぞリアン! 貴様の奢り、たっぷりと堪能させてくれ!」
そう思いを馳せていた途端、左手に柔らかい感触が。
エルデが俺の手を握っている、だと……!?
突然の行為に思わずまた胸が高鳴ってしまった。
その綺麗な顔で満面の笑みを浮かべるのはさすがに攻撃力が高い。
しかし今は悪い気もしない。
だから俺は敢えて彼女の手を握り返し、二人仲良く酒場へと向かった。
「いらっしゃい――おっ、リアンさんじゃないですかぁ」
「やぁロナーさん、せっかくだからもう来てしまったよ」
正装のロナーさんがグラスをキュッと磨きつつ俺たちを迎えてくれた。
質素な店内だからか、彼のそれらしい様子が実に際立つな。
ほんと、どうしてこんな辺鄙な村で酒場なんて経営しているのやら。
「しかもエルデさんまで。いやぁ旦那も隅にはおけませんなぁ~」
「いやいや、今日は彼女のお手伝いを労うためですからね?」
「ははは、今日の魔法の授業は凄かったらしいですねぇ。私も別件がなければ見てみたかったものですよ」
そんなロナーさんの前のカウンターを陣取り、エルデと座る。
今日は客も少なく、見慣れない男が端っこに一人座っている程度だ。
稀に旅人が立ち寄ることもあるし、不思議ではないな。
……普通の客なら、だが。
「じゃあマスター、今朝に言っていた上等な酒を
「3……?」
「そこのお客さんにも一杯、ね?」
そう注文すると、ロナーさんの視線が奥の男へ向けられる。
男もそれに気付き、外套の隙間から覗く目をギロリとこちらへ向けた。
殺意の染みついた眼だ。
隠そうとしてもできない、業を背負った人間だけが持つ独特さを放っている。
互いに目が合うと、男が何を思ったのか俺の横へと移ってきたな。
おまけに掠れた小声でボソボソと話し掛けてきた。
「一つ、伝えておく。昼間の3人組はアサシンギルドとは無関係だ」
……やはりアサシンギルドの手の者か。
ただし俺を狙って、という訳でもなさそうだが。
さて、いったいどんな用件を持ってきたのやら。
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