第4話 望まぬ再会
ツバサたちは風に乗って、空の高みへと昇っていく。
上空へ近づくほど、瘴気が濃くなるのがはっきりとわかったが、ツバサの浄化の力が四人を包み込み、外の毒気を退けていた。
「うわ、本当に……空の上に神殿があるんだな」
先ほどまでただの空の裂け目にしか見えなかったが、今ではその下に、霞の中に浮かび上がるように巨大な神殿の輪郭が見える。
「鍵のおかげで見えてるのかと思ったけど……」
「いや、もう結界が完全に機能していないな」
シンの言葉に、レイナは眉をひそめて頷き、さらに速度を上げる。
「ツバサ、大丈夫か?」
「う……吐きそう……」
空中神殿に到着すると、ツバサを抱えていたシンがそっと地に下ろす。
浮遊感に酔った彼女はぐったりとしていたが、見かねたレイナが無言で手を翳し、酔い止めの魔法を施す。
「でもさ、慣れたら楽しいかもな! 姉さん、今度俺と空中デートでもどう?」
「……遠慮しとくわ」
レイナが眉をひそめる横で、シンが小さく息をつく。
「それで、どうする? 今のツバサの力じゃ、あの空の亀裂は閉じられないんじゃないか?」
「うん……地上の瘴気すら全部は浄化できなかったし……」
ツバサはようやく立ち上がるが、空に大きく穿たれた亀裂を改めて見上げ、顔を曇らせた。
その様子に、レイナが軽く彼女の背中を叩く。
「しょげないの。まずは、風の竜を探すのが先でしょ?」
神殿の周囲には、瘴気の霧がねっとりと纏わりつくように立ち込めている。先ほど見えた輪郭は、今や闇に溶け込むようにその姿を曖昧にしていた。四人はまるで闇の中を彷徨うかのように、神殿の扉を目指す。
「この空気……やべぇな。ツバサの力がなかったら立ってられねぇぞ」
「竜たちの神力が弱まっているとはいえ、結界がここまで壊れるのは……誰かが意図的に壊したとしか考えられない」
シンが腕を組み、険しい表情で考え込む。
その時、不意に、少女のような軽やかな声が空気を裂いた。
「せいか〜いっ♪ ふふ、遅かったねぇ!」
「……この声は!」
四人が一斉に身構えた瞬間、声の主が嘲るように続けた。
「残念だけど、竜の力はもういただいちゃったの。急がないと――消えちゃうかもね?」
シンは反射的に剣を抜き、周囲に目を凝らす。だが、濃密な瘴気の靄のせいで、声の主の姿は見えないまま、霞の中へと遠ざかっていく。
「待てッ!」
「シン、やめて! 追わないで!」
ツバサが咄嗟にシンの腕を掴み、必死な表情で彼を制した。
「今は、シルフを助ける方が先……!」
「……わかった」
シンが静かに剣を収めたのを見て、ソウマがぽつりと口を開く。
「ていうかさ……あの時はバタバタしてて聞きそびれてたけど、アイツらって何なんだ? 知り合い……じゃねぇよな?」
「恐らく、奴らは暗黒教団、”デュナミス”。竜の力を悪用して、世界を支配しようとしてる」
「……っ!?」
その名を聞いた瞬間、ツバサは息を呑む。
忘れようとしていた記憶が、冷たい刃のように心の奥を突き刺した。
「……ツバサ、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
すぐに異変に気づいたシンが、彼女の背中を優しく擦りながら、心配そうに顔を覗き込む。
「う、ううん……平気。ありがとう、シン……」
(……ノーム。なんで言ってくれなかったの……?
でも、今は目の前のことをどうにかしなきゃ。しっかりしないと)
ツバサは大きく息を吸い、震える気持ちを胸の奥に押し込めて、顔を上げた。
「……大丈夫。行こう」
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