第3話 空の異変
「大臣! 大変です、空が……!」
四人は外に飛び出し、見上げた空に異様な光景を目にする。
「空が……裂けた?」
天蓋のように広がる青空に、細い亀裂が走り、闇が侵食していく。
それと同時にあれほど神聖だったアルカディアの大気が瘴気に蝕まれていくのを感じた――
「ううっ……!」
エルフの人々は吸い込んだ瘴気で、次々に倒れていく。フィンロスも額に汗を滲ませながら、膝をついた。
「まずい!ツバサ、浄化を!」
シンが叫び、ツバサはすぐに深呼吸をして両手を胸の前で組んだ。
「……ウンディーネ、力を貸して!」
彼女の額の文様が青く輝き、浄化の波が広がる。目の届く範囲には青白いベールが張られたように、黒い瘴気を拒絶していた。だが、国全体を救うには今の彼女の力では及ばないようだ。
「ごめん、今はこれが限界……!」
「……あの亀裂を何とかするしかないな」
「風が……まさか、シルフ様に何か……」
「あの神殿にシルフがいるの?」
ツバサは破れた空を指差し、フィンロスに尋ねた。彼はそれを聞いてハッとツバサの顔をみた。そして驚いたように目を見張り、頷いた。
「
「それなら、おじさん!今すぐ
ツバサが急かすように言うと、フィンロスは苦しげな呼吸を整えながら頷いた。
「空の神殿へ向かうには、王族にのみ受け継がれる鍵が必要です……」
「鍵って……もしかして……」
レイナはフィンロスの言葉で思い出したように、首に掛けられたネックレスを胸元から引っ張りだす。
「……やはり、それを継いでおられたのですね」
フィンロスはレイナの胸元に輝く、空の碧のような透き通る石を見て、そっと目を細めた。そのまなざしはどこか懐かしさをたたえ、そして、ほんの少しだけ――哀しみに濡れていた。
「セリオス様は空の竜に選ばれた神殿の守り人だったのです。守り人は代々竜との契約を交わし、その力をもってこの国を繁栄へと導いてきました。その代償として、彼らは……自らの生命力を捧げるのです。
……セリオス様亡き今、恐らく貴方様ならその力を発揮できるはずです」
「私が……?」
レイナは困惑した表情でネックレスを握りしめた。その瞬間、柔らかな風が彼女の周囲を包み込む。
「お父上から”浮遊魔法”の話を聞いてはおりませんか?」
「浮遊魔法……!」
――再び幼き日の記憶が脳裏を過る
『レイナ、鳥さんみたいにお空を飛んでみたくないかい?』
『飛んでみたい! パパ、空を飛べるの!?』
『はは、今は無理かな。でもね、君に大事な呪文を教えておこう――いつかきっと、空を飛べる日が来るから』
「……アエロヴェルティクス!」
レイナがその呪文を唱えると、彼女の背中に羽が生えたように身体がふわりと宙に浮き上がった。
「すごいじゃねぇか!」
「まったく、あのクソ親父……何がプレゼントよ!こんな大事なこと黙ってるなんて!」
彼女は一瞬だけ目を閉じ、亡き父の顔を思い出す。そして力強くうなずき、碧い石をそっと撫でる。
「あまり広範囲には効果は出せないようね……。シン、ツバサを頼むわ。さあ、みんな、行くわよ!」
「了解」
シンはひょいと荷物を扱うように、軽々とツバサを抱き上げた。
「ひゃっ!? ちょ、シン! 私、重いってば!」
「気にするな」
「姉さん俺も抱っこして?」
「黙りなさい、犬。ほら、はやく私の手を取って」
レイナがシンとソウマの手をしっかり握ると、四人は風に乗って一気に宙へと舞い上がった。風は彼らを包み込み、軽やかな流れに乗せて空の高みへと導いていく。
地上に取り残されたフィンロスは、天を仰ぎながら祈るように両手を組み、四人の姿が見えなくなるまで見送った。
「……やはり、運命か。セリオス様のご息女が、竜の巫女をお連れするとは……。どうか、我らに未来を――」
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