第5話 竜災

「ああ、人間は竜災りゅうさいまでも忘れてしまったのか……」


ノームは悲しげに目を伏せ、ツバサにこの世界の歴史を語り始めた。


-この世界には、 人間、亜人、獣人、エルフ、ドワーフ など、数多くの種族が共存していた。その中で頂点に立つのが、「竜」と呼ばれる存在だった。竜は自然の一部として世界に豊穣と平和をもたらし、秩序と調和を保っていた。

その力は人智を超え、神聖視されていた。

特に神に最も近いとされる 四体の神竜 《しんりゅう》は、人々に数々の恩恵を与え、崇拝の対象となっていた。

しかし、長い年月が過ぎ、人間の文明は魔力を動力源として驚異的な発展を遂げた。魔力を使った機械や道具により、人々はかつてないほどの便利さと豊かさを手に入れたが、その代償として社会には 貧富の格差や差別 という問題が蔓延した。

人々の生活が豊かになるにつれ、彼らの心から 神竜への信仰 は薄れていった。

そして―― 「竜災りゅうさい」 と呼ばれる大厄災が起こった。


人の心に潜む 欲望、嫉妬、憎悪 といった負の感情が長年にわたり蓄積され、やがて竜たちの心を蝕んでいった。かつて神聖であった竜たちは、次第にその力を失い、理性を失って暴走を始めたのである。

世界は混乱に陥り、破滅の淵に立たされた。


そんな中、竜と心を通わせた一人の少女が現れた。

神竜から祝福を受け、自らの命を賭けて儀式を行った。

その尊い犠牲により暴走した竜たちは滅び、世界はなんとか救われた。


だがその後、神竜たちは深い眠りに就き、再び人々の前に現れることはなかった。

それから数百年の時が流れ、竜はやがて 伝説 として語られるだけの存在となった。


ツバサはただ呆然と立ち尽くしていた。


「信じられない……今より昔のほうが、ずっと文明が発展してたなんて……そんな話、聞いたこともないのに。」

「――恐らく人間たちは、意図して後世に伝えなかったのだろう。

己の過ちを認めることなく、やり直せると安易に考えた。だが……」


沈黙のなか、空気だけが微かに震えていた。

それは、語られぬ記憶の余韻――

ノームは、苦しげに目を伏せながら重々しく言葉を続けた。







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