『またお前か。異世界システム管理局、転生者にブチギレ中』

@chuntiansan

プロローグ 履歴書に「異世界ハーレム希望」と書いた男

–––日本で異世界転生ストーリーが流行るよりはるか昔…


あらゆる世界の理を統べる創設神・カリーネ=ユグドラシルによって異世界転生制度は構築された。


創設のきっかけは、神が人間社会を観察するなかで抱いた強い感情だった。


「この子は生まれた家が貧しくて学校にも行けず、

あの子はなにもせずに一生裕福……?

そういう“報われなさ”を放置するの、無理……。泣く……」


この“神の感情的な納得感”によって、システム導入は一気に進むことになる。




–––時は現代、ここは死後、選ばれし魂が集う生と死の間。異世界転生管理局。選ばれし魂はここで束の間の時間を過ごし、選別を受ける。


「はい、次の転生希望者――霧島ミナト、25歳。死因、バイクで自損事故。職歴、コンビニバイト六年。死亡直前に検索していたワード、『異世界 モテる方法』……」


書類を読み上げながら、俺――矢上ヤガミは深いため息をついた。


「またこのパターンかよ」


灰色のスーツに身を包み、管理局の面接室。

ここは、死後に転生を希望した人間を審査する――いわば“異世界版ハローワーク”のような場所だ。


「失礼します!俺、異世界めっちゃ行きたいです!!」


ガチャッと勢いよく扉を開けて飛び込んできた男。

茶髪ワックス、ピアス、Tシャツには『異世界征服中☆』の文字。どう見ても不合格コースまっしぐら。


「……霧島ミナトさんですね。お座りください」


隣に座る新人審査官・伊月しのぶが、にこやかに対応する。

彼女はまだこの世界の理不尽に慣れていない。よって笑顔が残っている。


「それでは、まずお伺いします。異世界への転生を希望する理由は?」


しのぶの定番の質問に、ミナトは胸を張って答えた。


「俺、現実じゃ全然評価されなかったんスよ。でも異世界だったら、チートで無双して、魔王倒して、モテて……そういう人生、ありだと思うんスよね!」


「……なるほど、動機は“人生やり直したい”。具体的には“モテたい”。」


俺は淡々とメモを取りながら、背もたれに寄りかかる。


「で?そのモテ力とやら、何をもって君に相応しいと証明するんだ?」


「え?あ、えっと……」


「君の履歴書、恋愛経験欄が空白なんだけど」


「そ、それは現実がクソだったからで……!」


「異世界は恋愛相談所じゃねえんだよ」


パシンと書類を机に叩きつけると、ミナトはビクリと肩をすくめた。


「能力希望欄、『全魔法無効・吸収・コピー・上位互換化・世界設定変更可能』って、盛りすぎだろうが!」


「えっ、だってテンプレってみんなこれじゃ――」


「そう、“みんな”やってんの。だから枠埋まってるっつってんだろ!」


しのぶが控えめに手を挙げる。


「ヤガミさん、少し落ち着いて……」


「落ち着いてるよ俺は常に冷静だよなぁ!?なぁミナト君!?」


「……ひっ」


俺は缶コーヒーを開け、一気にあおる。


「いいか、お前が転生して無双したら、そこの世界がどんだけ歪むかわかってんのか。こっちは被害者からのクレーム処理で地獄なんだよ」


「……でも、俺、異世界じゃイケてるって信じてるんスよ」


あくまで自信満々のミナトに、俺は眉をひそめる。


「その根拠のない自信、異世界でも通用すると思ってんの?」


「思ってます!!」


「……不採用」


秒で判を押した。


 

彼は呆然と立ち上がり、面接室を後にした。


しのぶが小声でつぶやく。


「……でも、ちょっとだけ、可哀想かも」


「なら同情して転生させるか?」


「いえ、無理です」


しのぶが即答する。

少し成長したな、と思った。



今日もまた、異世界がひとつ、守られた。


 


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