第8話 ミミ

 トトが洗面室を出て行って、五番目の王子のミミは一人になった。

 隣の寝室では兄弟たちが何やら楽しそうに笑う話し声が聞こえる。

  顔を素早く洗い、濡れた前髪をかきあげた。月の光に照らされて輝く、稲穂のような金色の髪からポタポタと水滴が落ちた。前髪を分けて、ふんわりと立たせた。

 ふと、鏡の中の自分と目が合った。甘い蜂蜜を固めたような琥珀色の瞳が見つめ返してくる。垂れ目のせいで、余計にまだ眠そうに見える。

 トトの言っていたことが気になった。トトの予知夢は、外れたことがない。どうしよう。急に不安になった。

 ドンドン。

ドアを叩く音で我に返った。

「ミミ、早くしろよ」

ルルがドアの外から話しかけてきた。

「ごめん。今行く」

ドアを開けて洗面室を出た。

「ミミはいつも最後だな」

ベッドに戻って素早く着替えた。

「みんなが早起きすぎるんだよ」

ミミは口を尖らせる。

「さあ、お支度は整いましたか」とロニ。

「お腹ぺこぺこだよ」とココ。

いつもと変わらない朝。

けれど、笑顔を見せているがトトだけが、ぎこちなく見えた。

「さあ、いくぞ」

ジジが言い、皆で部屋を出た。

 ミミは、そんなトトになるべく明るく笑顔をむけ、肩を組んだ。

ガヤガヤと階段を降り、二階の食事の部屋の前に着くと、さっきまでのおしゃべりをやめて静かに部屋に入った。

 王と王妃が窓辺で外を見下ろしていた。昨日の雨で、誕生祭の飾り付けが出来なかったので急ピッチで進められるのを眺めているようだ。

 窓辺の二人のそばまで行き、声を合わせて兄弟皆で挨拶をする。合図を出すのはロロだ。ロロは、兄弟たちをまとめるのがうまかった。

「父上、母上、おはようございます」

僕たちの声に、王と王妃が振り返った。

「王子たち、おはよう」と王妃が返し、王も頷いた。

「誕生日おめでとう。ココ」

王と王妃がココを順番に抱きしめた。

 ココは、ニコニコと満面の笑みで二人を見つめている。

兄たちは、そんな末っ子を暖かく見守っていた。

「ココも一人前ね。あなたたちのおかげだわ」

 そう言って王妃は、僕たちに微笑んだ。挨拶を交わし、自分たちの席に着いた。

 合掌のように手を胸の前で合わせて「いただきます」と言って食べ始めた。この言葉には、野菜や果物、肉や魚の命、生産者や、調理してくれた人々に感謝をしていただくと言う意味が込められている。 

 長方形のテーブルの先に王と王妃が並んで座り、そこから年齢順に右側にジジ、その正面にルル、ジジの隣にキキ、その正面にロロ、ロロの隣にミミ、正面にトト、ミミの隣にココと言う具合だ。

 ミミは正面に座ったトトを見た。

トトは、下を向いて、お皿のスープをスプーンですくっては戻してを繰り返している。

「トト、食べないの?」

トトがビクッとして顔を上げ、ココを見た。

「お腹空いてないの?」

ココが、パンを頬張りながらトトを見て首を傾げている。

トトが、僕とココを交互に見つめ、にっこりと笑顔を作った。

「うん、食べるよ」

 トトがそう言って、スープをすくって一口飲んだ。トトのその笑顔に満足したのか、ココは食事を続けてる。

 けれど僕は、心配でトトを見ていた。

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