第12話 離れたとしても

君は…

そうだ…血に染み入る思いだ。

第四幕の冒頭、彼は全身黒ずくめの巨人と対峙した。その黒い巨人は神聖で、紋様に満ち、深紅色で、勇ましく、まるで竹炭のようだった。だが、その数え切れないほどハンサムだった。なんと言えばいいのか分からない。

全てのデザインの中で、これが一番好きだ。シンプルだけど単純じゃない。設計者を称賛すべきだ。

…お父さん。

痛みに苛まれながらも、戦闘態勢を取った。

その時ガタンがやって来て、心配そうに尋ねた。「どうしたんだ?お父さんは…」

感じる。間違いない。

彼は…私のお父さんだ。

この設定を聞いて、観客全員が歓声を上げた。

この設定は確かに少し大胆だ。でも、初めてではないよね?

…まあ、この設定のものは他に思いつかない。ああ、以前見たような気がするのだが、思い出せない。

目の前の黒い巨人が狂乱しているのを見て、彼は慌てて受け流した。

このスーツは一番使いやすい。視界は一番クリアで、スーツは軽く、そして何より人体に一番近い。

そのため、戦闘時間も一番長い。なにしろ、フィナーレなのだから。

しかし、最長でも数分だ。そうでなければ、彼の体力では耐えられないだろう。

バスケットボール部のキャプテンの体を使っているとはいえ、中の人は運動部ではない。それどころか、私が知る限り、彼はとても物静かな人物のようだ。しかし、ある程度の訓練を経て、徐々に適応し、体力もかなり回復した。もちろん、彼に戦闘のルーティンを教えた。バスケットボール部は空手部ではないのだからね。

戦闘中、ナオは当然マイクに話しかける気力もなかった。そこで、彼の録音したナレーションが役に立った。

私は…やっと分かった。戦う意味を。

多くの人の笑顔を守るためなら…すべてを捧げる覚悟だ。

そのためなら…こんなこともいとわない。

雰囲気は最高潮に達し、音楽は最高潮に達した。彼は自らポーズを決め、愛する人に向かって致命的な光を放った。

クルクス・ディヴィニ・アモーリス(Crux Divini Amoris)

今回の特殊効果は、よりはっきりと十字型だった。

特殊効果に焦点を合わせられた彼は、苦痛に倒れ込むふりをした。そして、息を呑み、とてもハンサムなポーズをとって、家路についた。

今回は場面転換に休憩がなかったので、少し慌てた様子だった。幸い、ようやく切り替わった。

家に戻ると、母親が彼の体の傷跡を見て、苦しそうに顔を触った。

あなた…どうしたの?

…大丈夫よ。ただ倒れただけよ。

倒れてしまった…

…そうだ。

母親が信じてくれないのを見て、彼は無理やり笑顔を作った。

…わかった。夕食を作ってくる。

彼は主人公を一人残して、ゆっくりと舞台を去った。

私は…自分の父親を殺した。

彼は何もしなかったし、何もできなかった。…それでも私は彼を殺した。

それは世界を守るためだったが…今、決意は消え去ったようだった。彼は地面に座り込み、苦痛に泣き叫んだ。泣きすぎて声が枯れてしまった。

あいつの演技力は…またしても私の想像を超えていた。

…いや、どうやって練習したのか聞いてみなければならない。

…わかった。宿題をしなさい。

彼は目に涙を浮かべ、宿題帳を開き、ゆっくりとペンを取り出して、ごく普通の生活を始めた。

ナレーターは言った。

人は悲しみに暮れると、必ず自分を守ろうとする。心と魂は、自分では押しつぶせない。

彼には選択の余地がない。しかし、彼は選択を迫られた。

人生は続いていく。希望を持って生きよう。

ゆっくりと幕が下り、耳をつんざくような拍手が沸き起こった。

交流があっても、これほど質の高い作品が生まれるとは。

これが学生の作品?専門家の指導があるに違いない。

この人たちは未来のスターになるに違いない!

などなど、男女問わず様々な声が上がった。

思わず嬉しくて微笑んでしまった。これは私たちも作り上げた傑作であり、私たちの努力へのご褒美でもある。楽しんで。

よくやった!ナオ!

舞台裏に戻り、ナオに挨拶した。

シーッ…ナオって呼ばないで。

彼はとても不安そうだった。明らかに彼の正体だが、隠さなければならなかった。

心配しないで。他に誰もいないから。

…本当に?

本当に。

…よかった。

…やったなあ。

…うん。

話すことはあまりなかった。何も言う必要もなかった。

顔を見合わせるだけで十分だ。これが戦士同士の友情だ。

ああ、シン、太郎。この後の祝賀会はどこに行くの?

グループで話したでしょ?と僕は言った。

それに、まずはお礼を言いに行こう。まだ終わってないんだから。

わかったよ、主演。

チッ……。

着替えもせず、この格好でお礼を言いに行った。

ところで、演技の練習はどうやってしたの?

それは後で話そう!

楽屋の外から声が聞こえた。

行く……。

おれも荷物をまとめて出かける準備をした。裏方として、こういう機会は滅多にない。


時間制限で、ネタ切れ気味だったし……。肝心の予算が足りず、時間との兼ね合いで、結局、残り1時間ちょっと。残念だ。

とはいえ、一応成功裡に幕を閉じたと言えるだろう……。

さて、今回の公演も終了。光を受け継ぐ者よ、ご観劇ありがとうございました。これは悲劇であり、喜劇でもある。

司会者は、いかにもプロフェッショナルな口調で言った。

では、制作陣の紹介を。まずは主演陣から。

彼は手を振り、奈緒を指差した。そして、一礼して自己紹介した。

皆さんこんにちは。魔法少女エン役の降谷です。

突然、大きな音が響き、地面が揺れた。誰もが何かがおかしいと悟った。

地震?……いや。

窓からゆっくりと入ってきたのは、前回と同じ怪物だったが、さらに大きくなっていた。

ヨシコ…今、君を解放する。

君を救うことはできない…でも、少なくとも、私にできることはこれだ。

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