聖なる夜。サンタクロースの少女に、恋をもらった。
聖なる夜。サンタクロースの少女に、恋をもらった。
作者 夜野十字
https://kakuyomu.jp/works/16817330664430810300
サンタの孫娘、冬空聖と不器用な少年の花村天城が、聖夜に心を通わせる青春ラブストーリー。
現代ファンタジー。
ラノベ要素のあるエンタメ作品。
ファンタジックな設定と等身大の青春が融合した、心温まるクリスマスストーリー。
キャラクターの魅力が際立ち、ラストのサプライズも印象的。
実に素敵なクリスマスだ。
主人公は、男子高校生の花村天城。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で心情や状況描写が丁寧に描かれている。会話文が多く、テンポが良い。軽妙なやりとりが魅力。比喩や色彩表現が多用され、情景やキャラクターの印象が鮮やか、心の揺れや葛藤が細やかに描写され、感情移入しやすい。
現在過去未来の順に書かれている。
恋愛ものなので、出会い→深めあい→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の流れに準じている。
冬空は絡め取り話法、花村は女性神話とそれぞれの人物の思いを知りながらも結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道で書かれている。
三幕八場構成からなっている。
一幕一場 状況の説明、はじまり
十二月二十四日、クリスマスイブの夜。雪が舞う駅前で、花村天城はクラスメイトの冬空聖がティッシュ配りをしている姿に出くわす。彼女は白銀の髪にキャラメル色のコートを纏い寒さに震えていた。花村は自分の赤いマフラーを彼女に巻いてあげ、ティッシュ配りを手伝い始める。
二場 目的の説明
花村は冬空がただのクラスメイトではなく、サンタクロースの孫娘であることを一年前のクリスマスに知っていた。冬空は昨年の失敗で「プレゼント配り」から外され、今年は自分にできることとしてティッシュ配りを選んだのだった。
三場 最初の課題
ティッシュ配りを終えた二人は駅のベンチで温かい飲み物を飲みながら語り合う。冬空は自分の失敗を悔やみ、花村もまた彼女をどう励ませばよいか悩む。
四場 重い課題
冬空は「戦力外通告」を受けたショックで自分を責めていた。花村は、そんな彼女に「冬空らしさを大切に」と伝えるが、自分の言葉が本当に役立つのか自信が持てず、二人の間には気まずい沈黙が流れる。
五場 状況の再整備、転換点
冬空が帰ろうとした瞬間、花村は勇気を振り絞り、彼女の行動や存在を肯定する言葉を投げかける。冬空は感謝の言葉とともに笑顔を見せ、二人は別れる。
六場 最大の課題
クリスマスの夜、花村は自宅で冬空のことを思い出しながら眠る。しかし、夜中に突然冬空がサンタクロースの服装で現れ、花村の部屋を訪れる。冬空は「自分にできる最大限のプレゼント」を渡しに来たのだという。
三幕七場 最後の課題、ドンデン返し
冬空は花村にマフラーを返しに来たが、花村はそれを彼女に贈る。さらに冬空は「自分らしさを大事に」という花村の助言を実践し、花村に自分の想いを伝える。彼女は勇気を出して花村にキスをし、恋心をプレゼントする。
八場 結末、エピローグ
冬空は去り、花村は唇に残る温もりを感じながら、彼女からもらった「恋」というプレゼントを決して忘れないと確信する。聖なる夜に、サンタクロースの少女から特別な贈り物をもらった物語は幕を閉じる。
クリスマスイブの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に向かうか気になった。
導入部分がいい。
遠景で「目が合った瞬間、『あ』と僕たちは同時に声をあげた」とインパクトある書き出しがきて、近景で「雪がちらちらと舞い始めた駅前。十二月二十四日、時刻は午後八時過ぎ。俗にクリスマスイブと言われる日に、僕は高校のクラスメイト、冬空聖が道行く人にティッシュを配っているところに出くわした」と場所と日時、何をしている誰と出会ったのかを示し、心情で彼女の容姿を描いて深く入っていく。
きれいなクラスメイトで好意的な感じがする。偶然の出会いに興味が湧く。
寒いティッシュ配りに手袋もしていないのを見て、自分のマフラーをまいてあげるところには人間味を感じる。しかもティッシュ配りを手伝ってあげるという、実に好感が持てる主人公である。
主人公がいい子なので、読んでいこうと思える書き出しが良かった。
そこから過去回想で、遠景で「冬空聖は、サンタクロースの孫娘だ」と驚きの暴露が来て、近景で「僕、花村天城がその事を知ったのは、今からちょうど一年前のクリスマスだった」とそれぞれの名前を紹介し、心情で出会った経緯が書かれていく。
導入部分で名前を読んでいるものの、フルネームではない。
本編に入ってから、でった経緯を説明するときにあわせて、改めて自己紹介する書き方は読み手にも親切。
深夜に窓の鍵が開けられて扉が開く音が聞こえたら、不法侵入を疑うのはもっともなこと。「サンタクロースが来たのかもしれないなどという楽観的な考えは、微塵もなかった」とあり、信じているのは小学生前の子供ぐらい。信じてなくても何らおかしくない。
もちろん、信じている高校生だっているかもしれない。実際にサンタクロースの団体はあるわけなので、いないわけではないけれども、トナカイを引いてソリに乗って空を飛んでは世界中を飛び回り、子どもたちにプレゼントを配り回る存在はファンタジーの中にしかいない。
主人公に姿を見られたことで、戦力外通告を受け、ティッシュ配りをさせられているというのは、なんだか可哀想。
今の時代、煙突はないし、仮にあっても、細いから中に入ることはできない。おまけに夜は明るく、防犯カメラもあるしセキュリティー対策もしていて、マンションとかはオートロックのところもある。家主の人間に悟られることなく侵入するのは非常に難しい。
難しくも子どもたちに夢を配る仕事だからこそ、厳しいのかもしれない。
冬空の「プレゼント配りから外された」経緯や心情を、もう一段深く掘り下げられていると、より感情移入しやすくなる気がする。また、冬空のサンタクロース設定や、主人公の家族描写がもう少し具体的だと、世界観に厚みが出るかもしれない。
妹にはバレなかったのかしらん。
両親はどうだったのだろう。花村の家庭環境や日常描写も加えると、主人公のキャラクターがより立体的になる気がする。
一年後、再び彼女がやってきている。窓から入ってきたのかしらん。入りやすい家なのかもしれない。冬だから、寒さを凌ぐために戸締まりはきちんとしているはずなのに。
サンタクロースの侵入スキルは凄い。
そうして、という、ような、のこと、しかし、こそあど言葉などが目に付く。削ったり違う言い方をするなどされると、読みやすくなるのではと考える。
冬空聖のキャラクター造形が魅力的で、サンタクロースの孫娘という設定がファンタジックなのが興味がそそられた。日常と非日常が自然に溶け合っており、読後感が温かく、主人公の成長や勇気、相手を思いやる気持ちがしっかり伝わる。
ラストのサプライズ(冬空の訪問とキス)が印象的で、余韻が残るのもよかった。
五感描写は、視覚や聴覚、触覚が主に描かれている。
視覚では雪が舞う駅前、冬空の白銀の髪、赤いマフラーなど色彩描写が鮮やか。
触覚だは、冬空のかじかんだ手、マフラーの温もり、缶コーヒーの熱さ、唇のぬくもりなど。
聴覚は、静かな夜、缶を握る音、ドアが開く音、会話のやりとり。
嗅覚と味覚た、ホットコーヒーやココアの香りや味は控えめだが、温かさが伝わる。
主人公の弱みとして、自分の気持ちを素直に伝えるのが苦手で、口下手なこと。相手のために何ができるか悩み、行動に移すまで時間がかかる。自分に自信が持てず、照れやすいところもある。
会話のテンポは良くて面白いのだけれども、心理描写がややくどく感じるところがある。そういうところは、もう少し簡潔にまとめらていると良いかもしれない。
「『冬空らしさを大事にして』と、今日、花村くんは私に言ってくれました。ですから私、自分にできる最大限のプレゼントを贈りに来たんです」
彼女はそういって、主人公にサプライズとしてキスを贈る。
彼女らしさから、最大限のプレゼントとして選択したのがキスだったのは、彼女は以前から主人公のことが好きだったのかもしれない。
「それは……さすがに時期尚早だろ」
ともらったプレゼントを絶対に忘れないとする主人公から、告白も付き合うのもすっとばしているわけなので、この後主人公は彼女に告白して付き合ってほしいと申し出に行くかもしれない。
読後、タイトルを見直す。
聖なる夜にふさわしい贈り物かもしれない。
冬空聖が可愛いかった。サンタクロースの孫娘という設定が夢があって素敵だった。主人公の不器用さや、二人のやりとりにも共感できる。
温かく、優しい物語で、ラストのキスシーンは王道ながらもドキっとした。クリスマスの夜にぴったりの物語だ。
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