8章 救出

 ほとんど何も考えられずにいた。確かさっさと歩けとか言われた気がする。目の前に王城が広がる。レッパは見つけられただろうか?遠くからまた別の兵士がいた。馬に乗っていて、後ろの兵士はやけに背が小さい。二人の兵士はトランのお父さんと思われる人の前に立ち止まった。

「お伝えします。先ほどコープとやらりんご自由同盟の一員が王城に忍び込み、国王を殺害しました」

「なんだと!今そいつはどこにいるんだ?」

「裏から出て、走って逃走中であります」

「おい、お前ら、今すぐそいつを捕まえに行くぞ。俺に続け」

 そう言うとトランのお父さんや兵士のほとんどは走り出した。コープ先生は国王を殺したのか?自分の脳が混乱している。

 兵士はさっき来た二人だけになった、と思うと二人のうち後ろの人に違和感を覚えた。レッパだ。

「レッパだよね」

「フフフ、バレたか」

「僕は、バレなかったね」

「えっ、コープ先生」

 前にいたのはコープ先生だ。

「国王を殺害したんですか?」

「あんなのウソだよ」

 どうにか脱出したがカルがまだ王城にいる。

「王城に行ってカルを助けなきゃ」

「いや、無理だ。国の兵士のほとんどは王城にいる。今日はカルの救出には行けない」

「そんなあ」

「ところでメラはどこだ?メラだけ安否確認が取れていないんだが」

「リベラの家の近くの掃除用具入れにいます」

「えっ、なんで?」

 僕らはさっきまであったことをすべて話した。ウソの新聞、メラの監禁、トランの裏切り、いろいろ話した。

「じゃあ急いで掃除用具入れに向かおう」


 僕らはお互いにあったことを話しながら向かった。コープ先生はミレと用水路を開放する作業をしている時にカルが捕まった事を聞いたらしい。ちゃんとした新聞でトランが裏切ったことも知っていた。まずミレに用水路を任せてレッパの家に向かった。レッパは無事だったようでそこで少しの間どうするか話したらしい。その後、僕らが捕まったうわさを聞いて変装のプロのコープ先生はレッパも変装させて王城に向かうとちょうど僕らが連行されていたところらしい。


 掃除用具入れに着いた。僕は恐る恐る鍵を開けて中を見た。メラもこっちを見ている。

「ごめん」

 無意識にこの言葉が出た。メラも話した。

「バカ。バカバカバカ。疑ったりしてバカ。リベラのバカ。なんであの時反論しなかったの。怖かったんだから。ここに閉じ込められて。悲しかったんだから。なんでって思った」

 メラはまた泣き出した。僕もなぜか泣き出してしまった。

「ごめん。ごめんってば。なんであの時メラを助けなかったのかと何回も思ったし。ごめん。ごめん。ごめん」

 僕らはしばらく泣き続けた。やがてメラが

「今回だけだぞ。許すのは。バカめ」

と優しく言ってクスクス笑った。バカにこんなに優しい思いで聞けたのは初めてだ。周りにはみんないたが人目を気にせずこんなに泣いたのは初めてだ。

「人を疑うのは最も恥ずべき悪徳だぞ」

 レッパが言った。

「どこの台詞だい?」

「(走れメロス)だ。と言ってもこの時代には無いけどな。500年くらい経ったら分かるぞ。一応原作の(人質)は350年経ったら分かるぞ」

 レッパはたまによくわからないことを言う。

「まあいいや。じゃあ見つからないうちに国から出ますか」

 そっか。トランに家の場所とかもすべて分かるから王国を出なきゃ行けないんだ。


 その日の夜にポルさんの家に着いた。広い家だ。ゲンさんより広い。その日はとても疲れていたのでとても眠い。寝る前に少し祈った。カルが無事であるように、と。

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