第九話 告白

 実家に帰省することになった私は、専属メイドのサラを連れて辺境の地を離れた。

 お父様にどう説明するかはまだ決まっていない。ただ言えることは、神の力が使えるということ。その力が何故使えるのかと聞かれたら、創造主様から授かったものだと言うしかない。

 まあ、私が異世界から転生してきたと言えばすべての説明が付く。でも、それを告白して親子の縁を切られたらどうしよう。なんか怖くなってきた。


 「シルヴィア様、悩んでおられますよね。神の力のこと」

 「サラ、どう説明すればいいと思う?」

 「私としては正直に話した方が良いと思います。変に誤魔化すと話がこじれますよ」

  

 確かに変に誤魔化せば、話がこじれて収拾がつかなくなる。この際だからはっきり言おう。私が異世界人で、魂だけがこちらの世界で転生し、シルヴィアとして生まれ変わったと。そうすれば、神の力の説明が付く。


 「シルヴィア様、もうそろそろ主都に着きます」


 主都の南門に到着した。実家まであともう少しだ。


 「シルヴィア様、町が活気あふれています」

 「相変わらずね。ん? あれは……」


 白薔薇騎士団、副団長のレーナの姿が見えた。でも、あちらはこちらに気付いていない。何をしているんだろう。もしかして、寄り道?


 「どうされました?」

 「レーナの姿が見えたから、ちょっと驚いただけよ」

 

 主都の中枢、グランヴェル邸の前に到着した。私とサラは馬車から降りて邸宅の中に入る。


 「おかえりなさいませ。シルヴィア様」

 「ただいま。お父様はいる?」

 「はい、いらっしゃいます。では、ご案内を」


 メイドがお父様のいる場所に案内してくれた。

 書斎か。噂を聞いた人達の対応をしているのかな。独り言を言っているのが聞こえる。


 コンコン。


 『誰だ?』

 「シルヴィア様をお連れしました。中に入ってもよろしいでしょうか?」

 『いいぞ。中に入れ』

 「では、失礼致します」


 案内してくれたメイドと共にお父様の書斎に入った。


 「お久しぶりです。お父様」

 「シルヴィ、久しぶりだね。さあ、座って」

 「失礼致します」


 サラと一緒にソファーに腰掛けた。よし、説明しよう。

 

 「早速だけど、何で呼び出したのか説明するよ」

 「はい、お願いします」


 お父様がソファーに腰掛けた。なんか緊張する。


 「実はクリフォード様がロイ様を尋問してね。シルヴィの近況を聞き出したそうなんだ」


 クリフォード様がロイ様を尋問? 何で?

 

 「それで?」

 「シルヴィが特殊能力を使って見たこともない物を作り出していると言ったそうだ。そこで、本人に確認する必要ができたので呼び出したのだが、一体何を作ったんだ?」

 

 一旦深呼吸をした。よし、話そう。


 「私が作り出したのは、異世界で作られている電化製品というものです」

 「電化製品? それは一体どんなものだい?」

 「電気と呼ばれるエネルギーを使って動く道具です。雷のエネルギーだと認識していただいて良いと思います」

 

 お父様が頷いている。少しは分かってくれているみたい。良かった。


 「電化製品がどんなものか分かった。あと、異世界で作られているというのは?」

 「その説明の前に告白したいことがあります」

 「何だい?」

 「実は、私の前世は異世界人なのです。魂だけがこちらの世界で転生し、シルヴィア・グランヴェルとして生を受けた。その際、創造主と呼ばれる神様から力を授かったのです」


 お父様が真剣な表情を浮かべている。冗談だと思っていないようだ。


 「なるほど、神様がシルヴィをこの世界に連れてきたということだね。でも、シルヴィはシルヴィだ。私の子で間違いはない」

 「お父様……」

 「それで神様から授かった力とは一体どんなものなんだい?」

 「紙に作りたいものを描き、具現化させるという力です」

 「なるほど、紙に描いたものが現実のものになるということか。凄いな」

 

 サラが頷いている。側にいるだけで心強いと思っているのは私だけだろうか。やっぱり、理解者がいると安心する。


 「だが、神の力をむやみに使うのはやめた方がいい。でないと、シルヴィが奴隷のように働かされる危険性があるからね」

  

 その通りだ。神の力をむやみに使えば、奴隷のように働かされるかもしれない。もしそうなったら、私の自由が無くなる。それはなんとしても阻止しなければならない。


 「シルヴィ。ベネディクト国王陛下には報告するけど、それでもいいかい?」

 「ベネディクト国王陛下にですか? 構いませんが、それ以外の方には言わないでください」

 「分かった。ベネディクト国王陛下にはそう伝えておくよ」


 説明が終わった。このあとどうしよう。


 「シルヴィ、今日は泊まっていくかい?」

 「よろしいのですか?」

 「構わないよ。だって、この家はシルヴィの家でもあるし」

 「そうでした。では、自室に戻って休みます」


 お父様に一礼して書斎をあとにした。


 「シルヴィア様、上手く説明できて良かったですね」

 「そうね。サラも部屋に行きましょう」

 「はい!」


 自室に戻ろうとしたちょうどその時、セバスがサラの前に立ちはだかった。


 「サラ、お話は済みましたか?」

 「はい、先程終わりました」

 「そうですか。サラ、ちょっと話があります。ついて来なさい」

 「分かりました」


 何だろう。もしかして、再教育でもするのかな。


 「シルヴィア様はお部屋でお休みになってください」

 「分かったわ」

 「では、サラをお借りします」


 これは再教育だな。目がそう言っている。


 「ひとりでいるのは退屈ね。寝ようかしら」


 久しぶりの実家だ。なんかすることないかな。


 「寝よう」


 クリフォード様がロイ様を尋問したのは、私に未練があるか確認する為かもしれない。でも、私に未練はない。クリフォード様がエレナの言葉に惑わされて婚約破棄したんだ。今更好きだと言われても心に響かない。

 第一、神の力で電化製品を作ったことを聞き出していること自体おかしい。クリフォード様は私が力を振るって王都を豊かにすると思っているのではないだろうか。そんなこと、私は絶対にしない。何故なら、自由が奪われるからだ。

 自由を奪われて何が自由気ままなスローライフだ。私は絶対に力を王都の為に使わないぞ。


 「あっ、眠くなってきた」


 自分のベッドに横たわり、ゆっくりと目を閉じる。

 辺境の地に帰るのは明日で良いか。それより、スレナとマリアは上手くやっているのだろうか。ちょっと心配だな。

 

 「大丈夫……よね」


 私は疲れた体を癒すため、仮眠を取った。

 

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