第八話 実家からの呼び出し

 スレナとマリアがプリム村に駐在している兵士たちから、ある情報を入手した。それは、この辺境の地に王都にある住居とは違う住居があり、見たこともない道具を使って生活をしている者たちがいるという噂だ。

 ふたりが兵士から聞いた話によると、王都でその噂が広まっており、シルヴィア・グランヴェルがその発端だと言われているらしい。

 

 「シルヴィア様、大変なことになっていますね」

 「そうね。でも、これらの道具はここでしか使えない。つまり、持ち出すのは無意味ってことよ」

 

 王都に水源がないため、水力発電所が設けられない。あと、火力発電所を設けるという策もあるけど、石油や石炭、天然ガスがないため、実現は難しい。

 どのみち、水源があるこの辺境の地でしか電化製品は使えないということだ。


 「シルヴィア様。兵士たちの話によると、移住を考えている者がいるそうです」

 「移住って……。完全に私を当てにしているじゃない」

 「どうやら、何者かがここの情報を漏らしているようです」


 ここに住んでいる三人は情報を漏らすようなことはしない。考えるとしたら、隠密部隊が派遣されてここの情報を手に入れたかだ。

 

 「隠密部隊が動いたというのは?」

 「有り得ますね。でも、私達は会っていませんよ」


 寝ている間に色々調べたに違いない。寝る前はしっかりと戸締り確認をしよう。


 「あの……」


 三人で立ち話をしていたら、横から声を掛けられた。

 冒険者っぽい青年だ。


 「何? 貴方は?」

 「プリム村に滞在している冒険者です。あの、これお手紙です」

 「手紙? 誰から?」

 「アノス・グランヴェル公爵様からです」


 シーリングスタンプが私の家柄のものだ。間違いない。これはお父様からの手紙だ。

  

 「ありがとう」

 「では、失礼します」

 

 シーリングを外して手紙を取り出す。内容は――――。


 シルヴィア、元気にしている? 最近、そちらの噂が王都中に広がっていて大変なことになっている。一度、実家に帰ってきてそちらの状況を説明してくれ。近々、迎えをよこすのでよろしく頼む。では、また。


 と書かれている。

 迎えをよこすという事は、馬車で迎えが来るのか。なら、スレナとマリアに留守番を頼もう。


 「スレナ、マリア。実家から一度戻ってくるよう連絡が来たわ。近々、迎えがくるから留守番をお願い」

 「分かりました。留守の間、この地を守ります」

 

 留守の間はふたりに任せて大丈夫だろう。あとはサラを連れて実家に戻れば問題ない。

 さて、お父様にどうやって説明しよう。


 「お父様に正直に話すか。その方が隠し事が無くていい」

 

 正直が一番。お父様の前で力を見せれば納得してくれるだろう。


 「シルヴィア様、馬車がこちらに向かってきます」

 

 手紙を読んだ当日に迎えが来た。お父様が計算して送り出したのかな。なんて計算高いんだろう。でも、助かる。


 「何者だ!?」

 「シルヴィア様をお迎えにきました。グランヴェル家の執事でございます」

 

 この老人は知っている。グランヴェル家の執事長・セバスチャンだ。


 「セバス、久しぶりね」

 「シルヴィア様、お久しぶりで御座います。お手紙はお読みになられましたか?」

 「今さっき読んだわ。それより、ひとりで来たの?」

 「はい。ところで、サラはどちらに?」

 

 サラが血相を変えて家の中から出てきた。


 「セバスさん、お久しぶりです」

 「サラ、家の中で何をしていたのですか?」

 「掃除です。シルヴィア様、この状況は?」

 

 サラにお父様からの手紙を見せた。


 「お父様から実家に戻ってくるよう手紙が来たの。サラ、あとのことはマリアとスレナに任せて行くわよ」

 「シルヴィア様、少々お待ちを」


 セバスがエアコンの室外機や耕運機などに目を向けた。


 「なるほど、これが見たこともない道具ですか。誰が作ったのですか?」

 「私よ」

 「シルヴィア様がお作りになったのですか? 凄いですね」

 

 家の中を覗いている。ちょっと見てもらおうかな。


 「セバス、家の中も見てみる?」

 「よろしいのですか?」

 「良いわよ。さあ、どうぞ」

 「では、失礼致します」


 セバスが家に上がった。靴はちゃんと脱いでいる。


 「これは?」


 冷蔵庫を指差した。私は丁寧に説明する。


 「これは食材を腐らせないようにする冷蔵庫と呼ばれるものよ」

 「開けてみても?」

 「どうぞ」


 セバスが冷蔵庫を開けた。その途端、冷気を感じて目を見開いた。


 「この冷気はどうやって発生させているのですか?」

 「冷媒という物質を使って冷蔵庫内を冷やしているの。詳しく聞きたい?」

 「いや、結構です」


 驚いている。この世界では氷か常温で食材を保存している。それをずっと冷やしていると分かれば、驚くのも無理はない。

 それより、セバスが電気ケトルやオーブントースター、電子レンジに目を向けている。

 なんか驚いてばっかり。


 「シルヴィア様、貴女様は一体何を?」

 「実は私、これらを作れる力を持っているの」

 「これらを作れる力? どうやって?」

 「紙に設計図を描いて具現化させるの。試しに作ってみるわね」


 紙にりんごを描き、その物の性質や特性を書き込み、具現化してみせた。


 「何もないところからりんごが!」

 「セバス、食べてみて」


 セバスが恐る恐るりんごを食べた。また目を見開いている。


 「これは……、紛れもなくりんごです」

 「分かった? これが私の力よ」

 

 いつの間にか三人がセバスを囲っていた。何か言いたそうだ。


 「セバスさん、大丈夫ですか?」

 「サラ。貴女はこのことを知っていたのですか?」

 「私がシルヴィア様のお力を知ったのは、ここに来てからです」

 「そうですか……。どうやってアノス様にご説明すればいいのでしょうか」


 説明しようがないと言えばそれだ。創造の力は自分に知識があれば何でも作れる。そのことを伝えたら、お父様はどうするんだろう。力を隠すように言うのかな。


 「説明は私がするわ。さあ、グランヴェル家に戻りましょう」

 「分かりました。では、参りましょう」


 マリアとスレナに目を向ける。


 「マリア、スレナ、留守番よろしくね」

 「かしこまりました。必ず、この家を守ってみせます」

 

 頷いてから玄関に移動し、靴を履いて外に出た。


 「セバス、行きましょう」

 「かしこまりました」

 

 馬車の扉を開いてくれた。私はサラと乗り込み、向かい合う。


 「では、出発致します」


 馬車がゆっくりと動き出した。


 この辺境の地で何が起こっているのか気になっているんだ。事実を告げれば噂もなくなるはず。よし、お父様を味方につけるぞ。


 「シルヴィア様、頑張りましょう」

 「そうね。頑張りましょう」


 私は窓から見える景色をボーっと眺めた。

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