第三話 些細な喧嘩
三人と同居することになって思ったことがある。何で三人とも得意分野が家庭的なんだろうと。
マリアは農作物を育てるのが上手いし、サラは家事全般ができる。新入りのスレナは料理が得意で、いつも変わったものを提供してくれる。
私は……、便利な道具を発明しては三人に使ってもらって感想を求めている。
もしかして、家庭的じゃないの私だけ?
「スレナ、少しは農作業を手伝え」
「何を言っているの? マリア。農作業は貴女の仕事でしょう」
「お前は家の中で涼んでいるだけじゃないか。少しは手伝ってもいいだろう」
あ〜なるほど、エアコンの効いた部屋に居続けているスレナが羨ましいのか。それより、マリアが少し喧嘩腰だ。何があったんだろう。
「マリア、どうしたの? 農作業、嫌になった?」
「いや、そういうわけではないんです。ただ、涼んで料理をしているスレナに少しでも私の気持ちを知ってもらいたいのです」
「暑い中、毎日頑張っているものね。気持ちは分かるわ」
スレナがマリアを真顔で見つめている。何か言いたそう。
「マリア。貴女はベネディクト国王陛下に何を頼まれて来たの?」
「シルヴィア様の護衛だ。お前こそ、何を頼まれたんだ?」
「私はベネディクト国王陛下よりシルヴィア様の護衛とお手伝いをするよう仰せつかりました。気に入らないのなら、どうぞお帰りを」
マリアの何かが切れた。表情が尋常じゃないくらい怖い。
「帰れだ? 新入りの分際で何を言う」
「シルヴィア様は何かひとつ仕事をしてと仰りました。だから、私は毎日献立を考え、料理を提供している。それ以上の仕事を望むのなら仕事を教えてください」
スレナとマリアが睨み合いを始めた。サラが仲裁に入ろうとしているが、威圧が凄すぎて間に入れないでいる。
「仕事を教えて? お前に農作業ができるのか?」
「やってみないと分かりません。ですが、お役に立てると思います」
「分かった。なら、農場に来い」
ふたりが家の外に出ていった。マリアがスレナにクワの使い方を教えている。耕運機があるのに何故?
農業の基本を教えているつもりなのかな。なんか怖い。
「シルヴィア様、スレナさんが畑を耕しています」
クワを使って耕している。
もしかして、耕運機という便利な道具に頼らず、畑仕事の厳しさを体感させているのか。なんてハードな。
「マリアさんが苗を植えてますね。良い連携です」
「スレナ、大丈夫かな? 倒れたりしないわよね?」
「ちょっと行ってみましょう」
サラと一緒に外に出た。直射日光が眩しい。しかも、かなり暑い。
「スレナ、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。けど、暑いですね」
「そうだろう。私の気持ちが少しは分かったか?」
マリアが黙々と苗を植え出した。
この体験はスレナにとって良いものになっていると思う。だけど、クワで耕せるのは過酷と言える。せめて耕運機を使ってほしい。
「スレナ、もう良いぞ。家の中に戻れ」
「いえ、最後まで付き合います」
マリアの目が見開いた。何か驚いている。
「きついだろう。もういいぞ」
「マリアさんが何を伝えたかったのか分かりました。なので、最後まで付き合います」
「スレナ……」
スレナ、なんて良い人なんだろう。マリアの気持ちを
「シルヴィア様、こちらは大丈夫です」
「ふたりとも、無理しないでね。のどが渇いたら冷たいものを準備するから」
「では、緑茶をお願いします」
「分かったわ。サラ、冷たい緑茶を作って」
「かしこまりました!」
マリアがスレナに微笑んでいる。些細な喧嘩だったけど、落ち着いて良かった。さて、私は耕運機のメンテナンスをするか。
「シルヴィア様はお部屋で寛いでいてください」
「え? 何で?」
「それはこの家の主だからです。お部屋で涼んでいてください」
「……分かった。そうするわ」
マリアとスレナの間に友情が芽生えている。というか、ふたりってベネディクト国王陛下直属の騎士団長だよね。ライバル関係なのかな?
「おふたりとも、冷たい緑茶ができましたよ!」
「ありがとう御座います」
ふたりが小休憩に入った。聞くなら今だ。
「ねえ、ふたりとも。聞きたいことがあるのだけど」
「何でしょう?」
「ふたりは騎士団の団長なんでしょう。その……、ライバル関係だったりするの?」
スレナがポカンとしている。
私、驚くようなことを聞いた?
「確かに私達はライバル同士です。ですが、今は同じ屋根の下に住む仲間です」
「でも、お互い譲れないものがあるでしょう?」
「そうですね。譲れないものがあります。ですが、今は仲間同士です。お互いを尊重し合うのは当然でしょう?」
スレナ、凄く大人だ。そして、マリアも。
「そうよね。お互いを尊重し合ってこその仲間よね」
「シルヴィア様、末永くよろしくお願い致します」
仲直りしてくれて本当に良かった。さて、昼食の準備をしようかな。
「スレナ、今日の昼食は私が作るわ。何か食べたいものがある?」
「では、フレンチトーストを」
フレンチトーストか。好きなのかな?
「サラ。食パンと卵、牛乳はある?」
「ありますよ」
「スレナ、マリア、今から作るわね。出来上がったら呼ぶから、リビングで休んでいて」
家の中に戻り、フレンチトースト作りに取り掛かる。牛乳と卵を混ぜ、砂糖を加える。そして、食パンはハーフサイズに。
「よし、焼こうかな」
牛乳と卵と砂糖を混ぜた液に食パンを浸し、フライパンにのせて焼き加減を見る。表面が焼けたら次は裏面。それを繰り返し、四人分のフレンチトーストを完成させた。
「ふたりとも、フレンチトーストができたわよ」
「はい、今から行きます!」
メイプルシロップをたっぷりかけて三人を待つ。今回のフレンチトーストは出来が良い。きっと美味しいはずだ。
「お待たせしました」
「では、頂きましょう」
「はい。頂きます!」
ダイニングテーブルを四人で囲み、フレンチトーストを食べて疲れを癒やした。
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