第十一話 滞在を終えて

 滞在期間中、ロイ様に様々な電化製品や設備を説明した。


 「原理はよく分かりませんが、電気を主に使っているのですね」

 「その通りです。ロイ様」


 ロイ様が電化製品の虜になったのは言うまでもない。記念にひとつ持って帰りたいとさえ言った。だけど、この家にあるものは全て極秘にしておかなければならない。もし見つかったら、王都でも使いたいと私をこき使うだろう。それは絶対に嫌だ。


 「ロイ様、明日お帰りになるのですよね?」

 「予定ではそうです。でも、もう少し居たいと思ってしまっています」

 

 これだけ便利な道具に囲まれたら、帰りたくないと思っても不思議じゃない。私だって実家に帰りたいと思わないくらい、この家に愛着を持ってしまっている。やはり、この家は最高だ。


 「シルヴィア様。何か困っていることがあれば、遠慮なく僕に言ってください」

 「困っていることですか? 裏手にあるダンジョンくらいですね」

 「ダンジョン? 確か、洞窟が裏手にありますね。魔物が出るようでしたら退治させますが」

 「直接被害はないのですが、魔物が住み着いていると不安なので退治していただけると助かります」

 「分かりました。王都に戻ったら父上に相談してみます」


 ベネディクト国王陛下に相談してもらえば、不安要素であるダンジョンを攻略できるかもしれない。その時は私も同行しよう。


 「ロイ様、夜も更けてきたのでお休みに」

 「そうですね。では、おやすみなさい」

 「おやすみなさいませ」

 

 ロイ様が和室に向かっていった。

 さて、私も寝よう。


 「照明を常夜灯に切り替えて……」


 リビングの照明を常夜灯に切り替えて階段を上る。

 ロイ様のおもてなしも明日で終わりか。色々お話しできたけど、何かお土産を持たせた方がいいな。電化製品は駄目だから他のものを用意しよう。そうすれば記念になる。


 「……さて、寝よう」


 自室のベッドに横たわり、ゆっくりと目を閉じて深い眠りに就いた。




                    *




 ――翌朝。

 早起きした私は、台所に自ら立ち、フレンチトーストを作った。


 「おはよう御座います」

 「ロイ様、おはよう御座います。今からコーヒーを入れますね」


 ダイニングテーブルには、私のお手製のフレンチトーストが並べられている。それらはこの世界で流行していない。ロイ様も興味津々だ。


 「シルヴィア様、これは?」

 「フレンチトーストです。食パンを牛乳と卵、お砂糖を混ぜたものに浸して焼いたものです。美味しいですよ」

 

 フレンチトーストにはメイプルシロップがたくさんかけられている。糖分をたくさん摂取するのに最適なものだ。


 「それにしても意外でした。シルヴィア様も料理ができるとは」

 「ある程度の家庭料理なら作れますよ。ところで、今日は何時ここを発つのですか?」

 「朝ごはんを頂いて少ししたら発とうと考えています」

 「そうですか。寂しくなりますね」

 

 ロイ様が寂しそうな表情を浮かべている。やはり、私のことが好きなんだ。少し嬉しいかも。


 「また暇を見つけて遊びに来ますよ」

 「はい、その日を楽しみにしておきます」


 コーヒーメーカーのコーヒーがいっぱいになった。私はマグカップにコーヒーを注ぎ、ロイ様の前に置いた。


 「ロイ様、ミルクと砂糖はいりますか?」

 「はい」


 砂糖が入ったポットとミルクを置き、にっこり微笑んだ。

 ロイ様も苦いものが苦手なのかな。もしかして、私と同じ?

 

 「ロイ様、苦いものは苦手ですか?」

 「はい、苦いものは昔から苦手で……」

 「私と同じですね。でも、このコーヒーはそんなに苦くないですよ」


 ロイ様が恐る恐るコーヒーを口に運んだ。

 

 「……本当だ! 苦くない」

 「そうでしょう。豆によりますが、苦くないものがあるのです」

 

 ミルクと砂糖を入れずに飲んでいる。相当気に入ったみたい。


 「ロイ様。宜しければ、このコーヒー豆を差し上げましょうか?」

 「良いのですか? 頂けるのなら是非」


 高級コーヒー豆が入った袋をひとつ差し上げた。凄く喜んでいる。


 「ありがとう御座います。大事に飲みます」


 楽しい朝食の時間が終わった。ロイ様はもうそろそろ帰らないといけない。少し寂しいな。


 「ご馳走様でした。では、僕はこれで」

 「二日間と短い間でしたが、とても楽しかったです。またいらしてください」

 「はい。短い間でしたが、ありがとう御座いました。また来ます」


 三人でロイ様を見送った。そのあと、サラとマリアは先に戻り、朝食のフレンチトーストにフォークを刺した。


 「シルヴィア様、ここまでしなくても」

 

 マリアが美味しそうに食べながら私にそう告げた。

 これは、私のおもてなしをロイ様に感じてほしくて作ったもの。ここまでしないと分からないと思って作ったのだ。やり過ぎではない。


 「ロイ様をおもてなしするのに、ここまでしなくてもいいというのはないでしょう」

 「シルヴィア様。もしかして、ロイ様のことが好きになりました?」

 「少しね。マリアはどうなの?」

 「どうでもいいです。それより、おかわりありますか?」

 「あるわよ。食べる?」

 「はい、頂きます!」


 台所に入って再度フレンチトーストを作り始める。

 サラは寝ぼけているのか、座ったまま眠ろうとしている。久しぶりの休日だから気が緩んでいるみたい。大丈夫かな?


 「サラ、眠いのなら自室に戻って休みなさい」

 「大丈夫ですよ。ちょっと眠気が残っているだけです」


 サラがコーヒーを口に運んだ。その時、一瞬で覚醒した。


 「このコーヒー、凄く美味しいですね!」

 「眠気が覚めた? もう少しでフレンチトーストができるから待っていて」

 「はーい」


 ふたりのフレンチトーストが完成した。メイプルシロップも忘れずにかけてある。凄く美味しそうだ。


 「さあ、食べて」

 「頂きまーす!」


 ロイ様、コーヒー豆を大事に持って帰られたな。手土産を渡すことができて本当に良かった。今度来られたときは、コーヒー豆だけでなく、紅茶もあげよう。


 「シルヴィア様、美味しいです!」

 「そう……、良かったわ」


 私はフレンチトーストを食べているふたりの横で、コーヒーを飲みながら寛いだ。

 

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