第十話 ロイ・ヴァリアントの告白

 おもてなしが順調に進み、夜を迎えることができた。私はシャンパンを片手におつまみを食べている。

 

 「なかなかいけるわね」

 「そうですか? ありがとう御座います」


 おつまみは、クラッカーにチーズやアーモンドをのせたもの。ひとつ食べてシャンパンを飲み、またひとつ食べる。成人でないと味わえない楽しさだ。


 「ロイ様、いかがですか?」

 「美味しいです。お酒が進みますね」

 「そうでしょう。さあ、どんどん食べてください」


 ロイ様が頻繁に私の寝間着姿を眺めている。

 肌はあまり露出していないけど、胸元に目を向けてくる。胸の大きさは比較的大きい。もしかして、ロイ様は私のことを……。


 「シルヴィア様、少しよろしいでしょうか」

 「はい、何でしょう」

 「兄のクリフォードについてなのですが、シルヴィア様との婚約を破棄したあと、己の間違いに気付いたようです。相手のエレナはお金目当てだったみたいですよ」


 クリフォード様、己の間違いに気付いても私は戻ってきませんよ。だって、この生活が楽しくて堪らないんですもの。頼まれても王都には戻らない。


 「そうですか。でも、私はこの家を離れるつもりはありません」

 「今の生活が楽しいからですか?」

 「はい、そうです」

 「僕も戻らなくていいと思います。今更戻っても得することはありません」


 意見が一致した。これは嬉しい。


 「そうね。今更戻っても得することはない。なら、今の生活を更に豊かにし、毎日楽しい生活を送れば未練なんて無くなると思います」

 「そうですよ。今のままで良いんです。けど……」

 「けど?」

 「僕はシルヴィア様と一緒に居たい。でも、父上がそれを良しとしないんです」


 ロイ様は私と一緒に居たいんだ。でも、ベネディクト国王陛下がそれを許さないでいる。何でだろう。


 「何故良しとしないのですか?」

 「それは、シルヴィア様が隠し事をしているからだそうです」

 「隠し事? まさか、私の個人的な力についてですか?」

 「恐らくはそうかと」


 特殊な力があるなら、国の為に活かせという事か。マリアが言っていた事と同じだ。でも、私は拒否する。だって、見返りが欲しいから。


 「もし個人的な力を国の為に活かせというならば、私は見返りを求めるわ」

 「そうですよね。僕がシルヴィア様と同じ立場だったらそうします」


 ロイ様も同じ意見か。考えが同じだと話しやすい。


 「ロイ様、差し支えなければ貴方の気持ちをお聞かせ願えませんか?」

 「良いですよ」


 シャンパンを少し飲んでこちらに視線を向けてきた。


 「僕としては、シルヴィア様と婚約したいです。理由は、シルヴィア様が優秀で品行方正だからです」

 「私が品行方正? 何かの間違いでは?」

 「間違っていません。シルヴィア様は確かに品行方正です」


 よく考えれば間違ったことはひとつもしていないな。でも、今の生活は自分の欲望を満たすために力を使っている。それが品行方正と言えるのだろうか。

 私としては違うと思う。


 「そう言われると困ります。私としては違うと思いますよ」

 「では、どう思われているのですか?」

 「私は自分の力を自分の為だけに使っている。他人を幸せにするために動くことはしないと思います。何故ならば、私の力は神様が授けてくれたものだからです」


 ロイ様が目を見開いた。


 「神様が授けてくれた力。何故今まで黙っていたのですか?」

 「だから、自分の為だけに使いたいからです」

 「それはそれでいいのではないでしょうか。国の為に使うか否かは、シルヴィア様次第ですよ」

 

 無理強いしているわけではない。ただ、国に貢献するか聞いているだけか。答えはノーだ。


 「国の為に力は使いませんよ。悪用されたら困りますし」

 「そうですか……。難しいですね」


 マリアがロイ様を睨んでいる。恐らく、これ以上追求するなと言いたいのだろう。でも、相手は王子様だ。騎士団長のマリアでも口を挟むことはできない。


 「マリアさん、少しよろしいでしょうか?」

 「何でしょう?」

 「マリアさんはシルヴィア様のお力をどう思っているのですか?」


 溜息を吐いた。呆れている?


 「便利な道具をお作りになっているのは、自分の生活を豊かにする為です。ロイ様はそれらの道具を欲している。違いますか?」

 「違くはないです。だけど、これらの道具があれば王都は豊かになる。それは間違っていないでしょう」

 「間違ってはいない。けど、これらの道具はシルヴィア様の知識の下に作り出されたもの。シルヴィア様なしでは成し遂げられない。つまり、王都はシルヴィア様を必要とする。そういうことでしょう?」

 

 マリアは私を王都に戻さないようにしている。ベネディクト国王陛下からそうするように言われているのかな?

 なんにせよ、マリアは私の味方だ。


 「確かにそうです」

 「私達はこれらの便利な道具を労働を対価に使わせてもらっている。そのことを忘れないでもらいたい」

 

 ロイ様が先程から無言で頷いている。納得したようだ。


 「分かりました。ですが、僕のシルヴィア様に対する想いは本物です」

 

 私がロイ様と婚約したら、クリフォード様が何を言ってくるか分からない。それに私の力を知ったら、国民の為に力を尽くせと強制されるかもしれない。もしそうなったら絶対不幸になる。それだけは避けなければならない。

 ロイ様はそのことを分かっているのかな?


 「ロイ様は私のことが好きなのですか?」

 

 つい口走ってしまった。ロイ様の顔が真っ赤だ。


 「すっ、好きです……」

 「では、私の考えは分かりますね?」

 

 顔を真っ赤にしながら頷いた。これでよし。


 「あの、シルヴィア様」

 「何? マリア」

 「先程から頂いているものなのですが、私にも頂けないでしょうか」

 「ごめんなさい。自分だけ美味しいものを」


 クラッカーを小皿に分けてマリアに手渡した。


 「ありがとう御座います」

 「シャンパンもいる?」

 「よろしいのですか? では、遠慮なく」


 サラが台所でクラッカーを使ったつまみを作っている。マリアは飲み会に参加したかったのかな?

 

 「さあ、ロイ様、遠慮しないでください」

 「ありがとう御座います」


 クラッカーを小皿に分けてロイ様の前に置いた。


 ロイ様が私のことを好きだなんて……、今でも信じられない。お父様にこのことを言ったら驚くだろうな。


 「ロイ様、おかわりどうぞ」

 「すみません」

 

 私とマリアはロイ様にシャンパンを勧め、雑談を交わして場を盛り上げた。

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