バッドムーン・ライジング

 紅い月が昇った。


 僕は通りに出て、空を見つめた。

 「こ、こんなことが起こり得るのか!?」

 もはや不吉な予感しかしない。


 すると、普段は挨拶もほどほどの隣人・エミさんが現れた。


 「世界の終わり……なの?」

 彼女も絶望的な予感がしているようだ。


 僕らはごくりと喉を鳴らす。


 と、その時、


 ジャラァァァァン!


 軽快なエレキの音がこの区画一体に響き渡った。


 「皆、心配するな!不安は音楽でかき消せる!」

 声のした方を見ると、エレキギターを持った革ジャンの、角と翼と尻尾を持つロケンロー悪魔が十字路の街灯の下に立っていた。


 「こんな夜だからこそ、楽しく踊ろう!行くぜっ!」


ジャッジャー、ジャジャッ、ジャンジャ、ジャンジャッ……!!!!


このイントロは『Bad Moon Rising』、CCRの名曲だ。


「そっちか……ま、いいわ。渋い選曲じゃない」

 エミさんが微笑む。


軽快なメロディに合わせて、ハスキーな歌声が響く。


こうして僕らは踊った。

エミさんとも手を取り、紅い月の下で愉快に回った。

他の通行人たちも負けじと、曲に合わせてそれぞれのステップを踏んだ。


楽しい二分ちょっとの時間だった。


「センキュー!!!」

ロケンロー悪魔が叫んだ。


拍手喝采!


「ヒューッ!」

僕も彼に向かって指笛を鳴らす。


「それじゃあ皆、今夜は俺に付き合ってくれるかい!」


「イエァアアアッ!!!!」


「地獄の底まで付き合ってくれるかい!!!!」


「イエエ………へっ!?」


 僕たちはそこである疑いを抱いた。

 この悪魔、いかにもロケンローな恰好と言葉を吐いてロックに身を捧げているような感じだが、実際は僕たちの命を取る気なのかもしれない。


 いや、本当はただ、音楽を届けたいだけのストリートミュージシャンなのかもしれないが、悪魔が『地獄の底』と発言するのはちょっと怖い。


 僕たちは冷めた。


 悪魔の方も冷えた空気を感じ取ったか、無表情で僕らを見つめている。


 これが、僕らと悪魔の別れだった。

 街灯がパチパチと点滅、悪魔は姿を消した。


 気がつけば月が、真っ白に輝いている。


 僕はエミさんの顔を見た。

 彼女はもう、微笑んでいなかった。


 僕らはそれぞれの家に戻って行った。

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