「出会いと別れ」、あるいは「困難なコミュニケーション」についての三つの喜劇

ファラドゥンガ

天使はやはり微笑む

 ドンッ!


 誰かと思い切りぶつかった気がした。

 今は明け方の五時頃。辺りはまだ暗いとはいえ、通行人とぶつかるヘマをしてしまうとは……。


 昨日の夜、仕事終わりに大学時代の仲間と会って居酒屋で飲み倒した。その後、カラオケボックスで熱唱・熟睡し、二十四時間営業の牛めし屋で朝食を取って、仲間と別れた。

 地下鉄の始発まであと数分、駅に向かって路地裏をフラフラ歩いている途上での出来事だった。


 醒めてはいたが、まだ気分が悪い、頭が痛い。

 「いやぁすんませんね……」

 多少横柄な感じになりながらも、 精一杯の謝罪を相手に向けた。


 が、そこには誰も居らず。


 周囲を見渡す。

 明け方の路地裏には、僕以外の誰もいない。


 「気のせいだったか?」


 その時だった。


 僕の頭上がピカピカと明滅し出した。


 見上げると、薄暗闇の空の向こうに一条の明るい光!

 さらには、その光の中に一人の少女!


 これはあれだ、

 「親方!空から女の子が!」

 というやつだ。


 目を凝らして少女を見つめる。

 あの名作とは違い、白いドレスに身を包んだ金髪碧眼美少女であった。


 少女は僕のもとにゆっくり降りて来た。

 僕の方を向いてニコリと笑う。


 僕は思わず「ど、どうも」と会釈。

 

 すると、彼女は僕の手を取った。

 温かく優しい手の温もりが伝わってくる。


 そうして少女は、降りて来た道(?)を再び引き返そうと浮上し始めた。

 そう、僕を連れて。


 「ああ、僕は、天国に行くのか……」


 ひょっとしたら、ぶつかった相手は通り魔か暴漢で、僕を殺して財布を盗ったのかも。

 

 きっとそうだ。

 そして哀れな僕は天に召されるのだ。


「君は天使で、僕を天国に連れて行くんだね?」


 そう訊ねる。彼女はニコニコと笑っている。


「君は、天使なんだよね?」


 貼りついたような笑顔のまま、答えは無い。


 「ね、ねえったら……」


 「……」


 不安が生じた。


 天国に行くっぽい感じではあるが、そうではなかったら?

 この明らかに天使のような少女も、悪魔の手先だとしたら……!


 彼女の笑顔が作り物にしか見えなくなった。

 背筋に緊張が走る。


 「き、君!降ろしてくれ!」


 掴まれた手を振り解こうと、僕は空中でジタバタした。

 彼女はそんな僕を気にもかけずに昇って行く。


 「まだ、まだ死ねなぁい!!!」


 不様ぶざまな僕を見かねたか、彼女は僕に顔を近づけてきた。

 

 耳元まで口を近づけ、そして一言。


 「ドンッ」


 その声に、僕の胸にドキンッと衝撃が走る!

 そして思わず跳ね起きた。


 「おお、意識を取り戻したか!」


 目の前に駅員さんらしき制服の男性。

 僕のシャツははだけていて、胸にAEDのパットが貼られていた。

 僕は、しばらくして到着した救急車に乗せられて病院へ。


 後で聞いた話だが、駅の利用者から「近くで男の人が倒れている」と連絡が入り、駅員さんが駆けつけてくれた、とのことだった。


 警察からも連絡があった。ぶつかった相手は通り魔でもなんでもなく、恥ずかしいことに街灯だった。僕の頭のぶつかった痕跡が付いていたらしい。


 フラフラ歩きは危ない……が、面白い体験ではあった。

 今度、飲みの席で話してみようと思う。

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