第3話
なにかがおかしい。
目の前の光景――共同生活しているシェアハウスのリビングで食事を摂っている三人。恭介自身も含めれば、優衣、夏帆、明日香がいる。
そう、四人だ。
喉に小骨が刺さっているかのように明確な違和感を、いよいよ異常として彼は認識した。
そして、やはり狐か、と思う。
「……一人多い」
「三嶋くん、どうかしたの?」
優衣がじっと恭介を見る。
「三嶋? なんだ、あたしに惚れたのか?」
からかい気味に夏帆が訊ねる。
「それはないです」
「速攻で否定するなよ……」
「どうしたの? 後輩くん?」
明日香は心配気に隣から恭介の顔を覗いた。
「いえ、その……、一人多い気がして……」
異変を感じた。そのことを告げると、優衣と夏帆は視線が鋭くなる。
「やっぱり化けてる?」
「はい、俺はそうだと思います」
優衣の問いにはっきりと答える。
「狐かあ。仲間をやられて怒っちまったのか?」
夏帆が原因を口に出すが、正解は分からない。あるいは、と彼は思う。
――人間の肉を覚えてしまったのかもしれない。
「……ちょ、ちょっと待ってください。さっきから何なんですか? 一人多いだの、狐だの……」
「昨日の狐の家ですよ、明日香さん。生き残りがいたみたいです」
「生き残りって……」
「一匹仕留めそこなっていたみたいだね」
優衣が確定事項だとばかりに告げる。
「あたし達は呪われちまった。優衣と一緒にお守りの異常も確認したでしょ? ――この中の誰かが化けている」
夏帆は順繰りにこの場にいる面々を見やった。
「そんな……」
「明日香さん、うちの会社では――」
「……違和感、異変、異常。すべて危険。油断は禁物」
恭介たちの勤める会社の鉄則とも呼べる言葉を、明日香はスラスラと述べる。
「そうだぞー。直感に従わなければ、うちの会社ではすぐに死ぬか行方不明になっちゃうからなあ。異変を感じ取れただけまだマシな状況だけどね」
気付いたら蜘蛛の糸の上、それが一番面倒だ。
夏帆はなんてことない口調であり得るかもしれない悪夢のような事態を語った。
「――みんなどうする?」
優衣が疑問を投げかける。
この状況を知ってどうするか。簡潔な問いに答えたのは恭介だった。
「玄狐への最も効果のある対処法で既に化かされてる場合は――互いを知ること」
「いいね、分かりやすい。じゃあ、まあ、対策通りに互いを知るとしますか」
まるで劇の主役のように夏帆は両手を広げた。
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