第3話 授業中の『バカ』

華乃も、その日は学校だった。

だけど俺と同じように、授業なんて全然頭に入らなかったらしい。


1時間目が始まってすぐくらいだった。

机の上にあったiPadが、そっと震えた。


こっそり開くと、華乃からだった。


「授業、全然集中できない。

昨日のこと考えてたら、胸がぐるぐるしてる……。

ねぇ、ほんとに…好きって言ったの?」

顔が自然とにやけてしまう。

焦って手で口元を隠しながら、すぐにiPadを打ち返した。

幸い、俺の席は先生から死角になる後ろのほう。

周りにバレないように気をつけながら、堂々と返信する。


「言ったよ。何度でも言うよ。好きって。

……昨日だけの気まぐれじゃないから。」

数秒後、また華乃から。


「そんなこと言われたら、ますます集中できなくなるじゃん……バカ」

「……でも、嬉しい」

“バカ”って言葉のあとに続いた“嬉しい”が、たまらなく可愛かった。

教科書を開いてるフリをしながら、iPad越しにずっと華乃とLINEを続けていた。


教室の空気なんて、もうどうでもよかった。

目の前にあるこの画面と、その向こうにいる華乃だけが、今の俺の世界だった。


黒板に向かっているはずの目も、すっかりiPadの画面に夢中になってた。

こんな気持ち、初めてだった。

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