好きって、言ってしまった夜

輝人

第1話 恋の始まり

久しぶりの夜、華乃と通話をしていた。

「最近どう?」なんて、たわいもない話が続いていたけれど、心はどこか浮ついていた。

画面越しの声だけが頼りで、それでもなぜか距離が近く感じる。


「ねぇ、好きな人いるの?」

唐突に、そんな問いが飛んできた。


一瞬、心臓が跳ねた。

だけど俺は、まだ言えなかった。

「どうだろうな」なんて誤魔化すと、華乃はちょっと不機嫌そうに黙って、すぐに問い詰めてきた。


「絶対いるでしょ。誰?言ってよ、気になるから!」

「なんでそんなに気になるんだよ」

「……だって……気になるじゃん」


その声が拗ねたようで、少し寂しそうでもあって。

だから、もう嘘はつけなかった。


「……華乃のこと、好きだよ」


沈黙。

風が通話越しに流れているような、静かな時間。


「……え?な、何て言ったの?」

「だから……好きって言ったんだよ」

「え……ほんとに?ほんとに……?」

「うん。ずっと前から」


華乃は何度も何度も、まるで夢を確かめるように聞き返してきた。

驚いた声も、戸惑った息も、全部が愛おしくて、笑ってしまった。


その瞬間、何かが動き出した気がした。

たぶん――恋ってやつだ。


でも、その後の華乃は、少しずつ口数が減っていった。

「華乃?」と呼んでも、返事はこない。


ふっと、小さな寝息が聞こえてきて。

画面越しの静かな夜に、彼女の寝落ちがそっと溶けていた。


俺はそっとスマホを耳に当てたまま、画面を見つめながら呟いた。

「……おやすみ、華乃」


そうして、俺たちの恋の夜は、静かに始まったんだ。

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