第31話
チセの敷地にたどり着いたとき、俺たちは全員汗まみれだった。
「ノシュ、ユイ、リラ! 丸太を広場に運び込め!」
「うおーっ、了解!」
「よいしょ、よいしょ!」
「頑張ろう!」
皆の声が雪原に響く。
丸太を広場の中心に下ろすと、子どもたちがわらわらと集まってきた。
「トウガー! これ何にするの?」
「見張り台だ」
「みはりだい?」
「そう。村を守るために、高いところから周りを見るんだ」
説明すると、子どもたちは目を輝かせた。
「すごーい!」
「高いとこ、のぼりたい!」
「手伝うー!」
元気な声に俺は笑いそうになりながら言った。
「手伝うなら、道具を運んでくれ。縄と木槌、それから支え用の小枝もいる」
「うん!」
「まかせて!」
子どもたちが雪を蹴って走っていく。
ノシュが腕を組みながら言った。
「頼もしいな、あいつら」
「そうだな。……これからもっと頼ることになる」
「オレたちも、負けてられねえ!」
ノシュが大声を上げた。
ユイも斧を掲げて叫ぶ。
「やったるぞー!」
リラが小さな声で言った。
「あたしも、できること全部やる」
皆の声に押されるように、俺は叫んだ。
「よし、始めるぞ!」
丸太を立てるため、まず基礎の穴を掘る。
雪を掘り、凍った地面を砕き、支柱を打ち込む。
「トウガ、こっちの穴掘れた!」
「よし、ノシュ、支柱を立てろ!」
「了解!」
「ユイ、縄を回せ!」
「おっけー!」
「リラ、支え木を渡せ!」
「はい!」
皆が声を掛け合い、動き続ける。
冷たい風も、降りしきる雪も、気にならなかった。
「支柱、立った!」
「固定するぞ、縄を締めろ!」
「もうちょっと引っ張れー!」
「うん!」
全員の手で、一本目の支柱が立った。
その瞬間、広場に歓声が上がった。
「やったー!」
「すごい!」
「立った立った!」
俺も拳を握った。
「まだ終わりじゃないぞ! 二本目、行くぞ!」
「おーっ!」
作業は続く。
力を合わせ、声を合わせ、一本ずつ支柱を立てていく。
昼を過ぎる頃には、粗末ながら四本の柱が立ち、見張り台の骨組みができた。
「よし、これなら、見張りができる」
俺は登るための梯子をかけながら言った。
「トウガ、オレも登っていいか?」
ノシュが目を輝かせる。
「行ってこい。見えるか、村の外?」
ノシュは梯子を駆け上がり、てっぺんに立った。
「すげえ……見える……あっちの川も、林も!」
ユイが羨ましそうに叫んだ。
「いいなー! わたしも見たい!」
「交代で登れ。慌てるなよ」
「はーい!」
皆が代わる代わる登っていく。
その光景を見ながら、俺は心の底から思った。
俺たちは、確かに前に進んでる。
この雪と氷の世界で、生きるために。
「トウガ!」
上からノシュが声を張った。
「何か動いてるぞ、東のほう!」
俺は顔を上げた。
「どこだ!」
「木の向こう! 白くて、でかい!」
リラが顔をこわばらせた。
「まさか……また、あれが……?」
俺は即座に指示を飛ばした。
「ユイ、村に知らせろ! リラ、子どもたちをチセに集めろ!」
「了解!」
「わかった!」
ユイとリラが駆け出す。
俺はノシュに叫んだ。
「見張れ! 動きがあったらすぐ知らせろ!」
「任せろ!」
俺は腰の《イカル・ケラ》に手を添えた。
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