第34話

馬車はのろのろと進んでいた。


重い車体に、子どもたちをぎゅうぎゅうに詰め込んでるんだ。速度が出るわけがない。それでもいい。速さなんかより大事なものを、俺たちは確かに運んでる。


サティアが小さな声で何かを呟いた。


ディーパが隣で肩を寄せた。


ヴィーラは馬車の端からじっと外を見て、アムリタは俺の背中をずっと見つめていた。


何も言わなくてもわかる。


こいつらは、ちゃんと生きようとしてる。


俺が火を灯しただけじゃない。こいつら自身が、自分の中に火種を見つけて、それを守ろうとしてる。


それがたまらなく嬉しかった。


「次は、どこに行く?」


シャイレーンドリが尋ねた。


「土地を探す」


俺は即答した。


「誰の支配も受けねぇ、誰の加護にも縛られねぇ、そんな場所を」


「そんな場所、簡単には見つからないわよ」


「だから探すんだよ」


俺は拳を握った。


「見つからなきゃ、作る。石を運んで、火を灯して、ひとつずつ積み上げていく。逃げ場所じゃない、戦う場所だ。生きることを肯定するために戦う、そんな場所を」


シャイレーンドリは、ふっと笑った。


「本当に、あなたは無茶苦茶ね」


「知ってる」


俺も笑った。


けど、それくらい無茶でなきゃ、この世界には抗えねぇ。


現実は甘くない。抵抗すれば踏みつけられるし、叫べば潰される。


だから俺たちは、立ち上がるしかない。


何度潰されても、何度拒絶されても、立ち上がって、火を灯して、生きる。


馬車が小さな川を渡った。


水の流れる音が、やけに優しかった。


川辺には、色とりどりの花が咲いていた。


名も知らねぇ花。


誰も名前をつけてやらなかった花。


それでも、咲いている。


ただそこに在るだけで、美しい。


「……なぁ、シャイレーンドリ」


「なに?」


「人間も、ああでありてぇな」


シャイレーンドリは静かに頷いた。


「生まれただけで、咲いていい。誰に許されるでもなく、誰に認められるでもなく。それが自然ってもんよ」


「なら、それを信じる世界を作ろう」


俺は拳を握ったまま、そう誓った。


「この手で、必ず」


馬車の中で、子どもたちが小さな声で話し始めた。


言葉にはならない音。けど、それは確かに希望の音だった。


小さな火が、広がっていく音だった。


俺は目を閉じ、胸に誓った。


絶対に、絶対に――この火を絶やさねぇ。


こいつらを、守り抜く。


誰にも壊させない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る