第28話
火を灯したまま、俺は階段を下りる。
足元に広がるのは、今までと変わらない石の道――けど、なぜか空気がまるで違って感じた。
いや、違ってるんだ。俺が変えたんだ。俺の火が、死しかなかったこの場所に“何か”を残した。カーリカの目に宿った光。それはきっと、無慈悲の仮面の下に押し込められていた、本来の彼女自身のものだった。
俺がしたのは、ただ“火を灯した”だけ。
燃やすことも、壊すことも、終わらせることも、確かに俺の役目の一部だ。けど、それだけじゃ足りないってことも、ようやく分かってきた。火は、ただ焼くだけのもんじゃねぇ。照らすこともできるし、暖めることもできる。
「……俺は、やっぱり破壊神じゃねぇんだろうな」
誰に言うでもなく呟くと、後ろから足音がついてきた。
シャイレーンドリの気配は、いつだってわかる。声をかける前から、そこにいるって確信できる相手なんて、俺にはそうそういない。
「終わったの?」
その問いに、俺は首を横に振る。
「終わっちゃいねぇ。始まったんだよ。死の塔の意味が、“裁きの場”から“誓いの場”に変わるなら、ここで命を断たれたやつら全員の“存在”も、やっと誰かに届く」
「……あなたがいたから、変わったのよ」
「俺じゃねぇ。“あいつ”が、自分で決めた。カーリカは自分の意思で立ち止まって、そして選んだ」
「でも、あなたがいなければ選べなかった」
「それなら、そういう役目ってだけだ。俺は火を運ぶ。ただ、それだけ」
無表情の中に熱を感じさせるようになったカーリカが、塔の下層にいた。無数の“処分待ち”だった無加護者たちが今、彼女の指示で解放されていく。名もなかった彼らが、これからは“選ぶ側”として歩き出せるなら、それでいい。
見下ろすと、広場が見える。
処刑台だったはずの場所が、すでに解体され、火を囲む円形の石台に変わりつつあった。そこに灯された炎は、俺の術式の一部だ。“誓いの火”――存在の肯定を願う場所。
「行くか。次の場所へ」
「ヤーマ州を後にして……次は?」
「アシュタ州。あそこにはまだ、神格者に近づくことを禁じられた“隔離区域”がある。生まれつき“神格に触れる気配”を持った奴らが、外に出られず閉じ込められてるって話だ」
「危険視されるほどの潜在力を持ちながら、扱いは獣以下。制度の限界ね」
「なら俺が、その限界を破ってみせる」
馬車の準備はナンディンがすでに終えていた。
俺たちは火の塔を背に、また新しい空を目指して走り出す。
道中の山影に咲く名もなき花が、風に揺れていた。誰にも見られず、誰にも名を呼ばれず、それでも咲いているその姿が、どこか俺たちに似ているように思えた。
「なぁ、シャイレーンドリ」
「なに?」
「俺が燃やしてるのは、“外側”だけでいいんだよな?」
「ええ。“内側”に火がある人には、あなたの火はいらない」
「だよな。なら、次も灯してくるさ」
「その火が、やがて世界を変える」
俺は笑う。
俺の火は、ただの炎じゃない。否定されてきた“価値”を、見逃されてきた“意味”を、そして捨てられてきた“命”を、照らし出すための火だ。
もう誰にも消させねぇ。
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