第18話
炎と雷が、神殿を包む。
天井の天球図が裂け、壁面に刻まれた神紋が音を立てて剥がれ落ちる。マンダラ王国の象徴――その権威と威信の具現ともいえるこの空間が、ふたりの戦いによって崩れ始めていた。
シャンカの一撃は鋭く、無駄がなかった。雷神の加護を受けたその動きはまさに電光石火、視線を逸らした瞬間には雷撃が足元を裂いている。
「速えな……だが、それだけか?」
俺は雷槍をすり抜けながら炎を纏った拳を振るう。
「“タンダヴァ・ヴィクラーラ”!」
その一撃は空気ごと焦がし、軌跡に残る熱波が残像のように空中に焼き付く。
シャンカは瞬時に体を捻り、雷盾を展開した。
「インドラ・ヴァジュラ――“雷盾解放”!」
盾が光を放ち、俺の炎を押し返す。だが、攻防の主導権はすでに俺のものだった。
「雷だけじゃ、俺の“熱”は止められねぇ」
拳と雷槍がぶつかるたびに、神殿の石床が削れ、空間が揺れる。崩れ落ちる天井の破片を踏み砕きながら、俺はシャンカの真正面に立つ。
「この国を守りたいって言ったな? だったら、俺の拳が示す“壊れるべき価値”を教えてやる」
シャンカの表情がわずかに揺れる。
「貴様の力は、確かに理不尽だ。だが、それに膝をつくわけにはいかない!」
「わかってるよ、騎士様」
第三の目が再び輝きを放つ。だが、今度は“攻撃”ではない。
俺の足元に、炎の輪が広がった。
「“タンダヴァ・ナーティヤ”――破壊の舞踏、完全展開」
俺の体が動く。
神術の核、破壊神の原初の舞。すべての存在を否定し、再構築するその動きが、空間そのものに干渉を始める。
シャンカが雷槍を振り上げる。
「“雷神轟覇――ヴィシュヌパータ!”」
雷の柱が天から降り、俺を貫かんと襲いかかる――だが、そのすべてを俺は掌で受け止めた。
「……!? 止めた……だと!?」
「違う。受け入れたんだよ、お前の想いも、その誓いも」
雷が火に包まれ、昇華されていく。
「お前は強い、信念もある。だがな、その信念が“腐った構造”に支えられてるなら、今ここで終わらせるしかねぇんだよ!」
拳が走る。
雷を纏った騎士の胸を、真紅の拳が穿つ。
爆音とともに吹き飛んだシャンカは、神殿の柱に叩きつけられ、膝をついた。
沈黙が落ちる。
神殿が、ついに静かになった。
俺は拳を下ろしたまま、彼を見据える。
「……お前が間違ってるとは思わねぇ。けど今、俺の拳は“これを壊すべきだ”って言ってる。それが神の声なら、俺は従うさ。俺自身の、神としての意志に」
雷光が消え、炎も沈む。
静寂の中、シャンカは深く息をつき、顔を上げた。
その瞳には、敗北の痛みと共に、ある種の納得が宿っていた。
「……負けたよ。破壊神、アルジュン。だが――この国を“再定義”するなら、次は守ってみせろ。この国に生きる、名もなき者たちの未来を」
「任せとけ。俺の在り方はな、ただの破壊じゃねぇ。“再生”もセットなんだよ」
俺は背を向け、崩れた神殿を後にする。
その背に、シャンカの声が追いかけてきた。
「次に相まみえるときは、騎士としてではなく、“ひとりの人間”として語ろう!」
「その時は酒でも酌み交わすか、神騎士殿!」
笑いながらそう返し、俺は神殿の門を開いた。
新しい風が吹き込む。神都ヤタラの空に、曇りはなかった。
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