第17話

“カルマの柱”が崩壊し、粉塵の中から浮かび上がった新たな光の構造体。


それは、既存の加護の網を否定するように、幾何学的な曼荼羅を描き、まるで神自身の意志ではなく“個の力”そのものを讃えているかのようだった。


「これが……“再定義”か……」


シャイレーンドリの声が、かすかに震えていた。


「柱が……神性によってではなく、意志によって応じている……これまで一度もなかった反応よ」


「神から“与えられる”のが加護なら、これは“選び取る”ための器だ。違うか?」


「……いいえ。あなたが言うとおりよ。これが、新たな時代の価値基準になる」


周囲でその様子を見ていた神官たちは、もはや反論の余地すら持たなかった。


自分たちが拠って立っていた“基盤”が塗り替えられる様を目の当たりにして、言葉を失い、ただ立ち尽くすだけ。


それでも、ひとり――ただひとりだけ、その場に立ち向かってきた者がいた。


「……なるほどな。これが“破壊神の目覚め”ってやつか。噂よりも遥かに現実味がある」


低く、研がれたような声。


黄金の装束に身を包み、左肩に雷を象った紋章を持つ男が現れた。


背は高く、瞳は澄んだ青。気配は静かだが、歩くだけで空気が鳴る。


「王家第三王子、“神騎士”シャンカ・マンダラ。雷神インドラの正統なる継承者として、お前に“王権の裁断”を命じられて来た」


「……来たか。王族の犬」


「王ではない。俺は“騎士”だ。王に忠誠を誓うのではなく、この国を守るために在る」


「なら、その国が腐っていたらどうする?」


「斬る。それだけだ」


俺は、静かに頷いた。


「いい答えだ。だったら、斬ってみせろよ。今ここで、俺を」


「望むところだ」


雷鳴が轟く。彼の周囲に無数の雷槍が現れ、空間が明滅する。


「インドラ・シャクティ――“雷槍陣”」


「タンダヴァ・カルマ――“紅蓮輪舞”」


炎と雷が衝突し、神殿全体が震える。


周囲の神官たちが崩れ落ちる。空間が歪み、広間の床が割れる。だが俺とシャンカは、微動だにしない。


「……強えな。ちょっとは楽しめそうだ」


「お前は、破壊者。だが俺は、“守る力”の化身。俺はこの国を“壊されない価値”に変えるために戦う」


「言ってろ。変えるのは、俺の拳だ」


再び衝突。


雷光が俺の体を貫き、火焔が彼の盾を焼く。


互角――いや、ほんの僅かに、シャンカの方が戦闘経験では上か。


だが、俺には“本質”がある。


俺はただの戦士じゃない。俺は、“神”なのだ。


「お前はまだ、“壊す”という意味を知らない」


拳に熱が集まる。第三の目が、再び開く。


「“終わり”を知ってからが、本当の“始まり”だ」


「……来い、破壊神」


「望みどおり、喰らわせてやる」

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