第11話 露わになった欲望

 如月ミカが排泄シーンの絵を描いている──。

 その噂は、ひっそりとした個展で発表された数点の絵から広がった。


 ギャラリーの片隅、目立たぬ場所で展示されたその作品群。

 しかし、一人の来場者がSNSに写真を投稿したことで、瞬く間に話題は燃え広がった。


 「伝説のミカが、再び“出している”!」

 「これは冒涜か、それとも救済か?」


 テレビのワイドショーは一斉に特集を組み、週刊誌はセンセーショナルな見出しを踊らせた。


 『如月ミカ、禁断の復活──排泄の女神、今度は絵筆で挑む』

 『なぜ今、排泄を描くのか? 失われた身体感覚の再燃』


 コメンテーターたちは賛否両論を繰り広げた。


 「彼女は沈黙を守るべきだった!」

 「いや、これこそ彼女の真の表現だ!」


 ギャラリーには急遽長蛇の列ができ、ミカの絵を一目見ようとする者たちが押し寄せた。


 驚き、困惑し、そして涙を流す観客たち。


 排泄という最も人間的な行為が、ミカの手によって“聖と俗のあわい”として描き出されるのを見て、多くの人々は自分自身の内側にある原初的なものと向き合わざるを得なかった。


  ある著名な評論家は、こう論じた。


 「如月ミカの絵画は、もはや排泄というテーマを超えている。彼女は“身体の境界”を描いているのだ。出すこと、溜めること、漏れること──すべての生命現象の根源を、絵筆で可視化している。そこには恥辱も快楽もない。ただ純粋な存在の証明だけがある」


 この評論は一部で絶賛され、一部では激しく嘲笑された。


 しかし──如月ミカ自身は、何の声明も出さなかった。


 ただ、静かに、また新たなキャンバスに向かうだけだった。


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