第5話

―――大好きだった。

高校に入ってから先輩を見かけて、好きになって、2年生になってやっと告白して…付き合えた。学校帰りは、絶対にあのカフェに入って、いろいろ話して、夏休みも先輩は部活が忙しいのに時間を作ってくれて…

優しくて、でも、少し不器用で…


先輩の笑った顔が好きだった。


あのカフェで、部活で疲れて眠いのに、頑張って起きてくれてた先輩が好きだった。


不器用だけど、でも優しく私の手をひく先輩が、好きだった。


―――でも…私だけが好きだった。

私だけが、嬉しくて、楽しかった…。


「…私、先輩と別れちゃったんだね…」

私はあの時、先輩と別れた現実から、無意識に逃げていたのかもしれない。認めたくないから泣きたくなかったのかもしれない。


―――でも、それが辛かった。先輩の存在に依存しかけていた。

それを彼は、吐き出させてくれた…。

「…ありがとう。神崎くん。」


「―――じゃあ、俺のこと、ちゃんと考えてね?」


「え、でも…」

神崎くんが、私の手を優しく握る。手から伝わる、自分じゃない体温。もう片方の手は、私の顔に優しく触れて、指先でゆっくり涙を拭う。


「―――俺は結構、しぶといよ?」


「…!」

顔が熱い。心が揺れる。

視線を、そらさないとダメなのに…そらせない。


「これから俺を知って、返事を下さい。」


「…はい。」

神崎くんが、頬を赤らめながら笑う。綺麗な優しい笑顔。そんな彼を見て、私も自然に笑ってしまった。



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