第2話 生活の喪失と“説明の欠如”

その日の夕方、古賀浩平はいつものようにスーパーへ寄り、日用品を手に取った。


カゴに入れた牛乳、歯磨き粉、レトルトのカレー。

レジに並び、財布を取り出そうとしたとき――


「申し訳ありません。カードが使えません」


レジの女性が言った。


「え? それ、間違いじゃ……」

「通信エラーではないようです。“無効”と出ています」


キャッシュカードを差し出しても同じ。

「この口座は現在、ご利用いただけません」


彼は少し顔を引きつらせながら、スマホを開いた。

ネットバンキングにもログインできない。

アカウントが存在しない、と表示される。


「……そんなバカな……」


浩平は、それが機械的なエラーか、彼自身の手違いか、判断がつかなかった。


「えっと、もう一度だけ通してもらってもいいですか?」


「はい……あの、すみません。やはり“無効”という表示が出ますね」


レジの女性は笑顔だった。マニュアル通りの、やわらかい笑み。

けれど、その笑みの裏に、**「この人、気づいてないのか」**という、うっすらとした軽蔑のようなものを感じた。


「無効って……え、でも、昨日まで普通に――」


「他のお支払い方法は?」


まるで“次の台詞を拒否する”ように、先回りされる。


「あ、現金で……」


財布から小銭を出す手が、かすかに震えていた。

レジ横に並ぶ客たちの目が、チラリと彼を見ては逸らす。


その目線もまた、「見てはいけないものを見てしまった」とでも言いたげな――

“関わりたくない距離感”に満ちていた。

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