第8話 嫁宣言





「なんと!……その素晴らしい天才的で、絶対

 的な御方は、いったい何者なんですか?」


ナナシはわざとらしく声を上げ、少女に驚いた様子で尋ねた。


「ナナ神様は、約300年前に人類の防衛システムを作られた救世主様です。そのおかげで、私たちはベノムから生き延びることができたんですよ。

そして、今――そのナナ神様が復活するという噂があるんです!」


少女は、自分のことのように誇らしげにナナシに説明した。


「そうでしたか……って、それ、俺のことなんだけどね?」


ナナシは躊躇ちゅうちょなく、自分の正体を少女に打ち明かした。


「はぁ……そんなわけないでしょ?あくまでナナ神の復活は都市伝説うわさみたいなもので、300年前の人間が生きているなんてあり得ないですから」


少女は呆れた様子で手をヒラヒラと振りながら、ナナシの言葉を笑い飛ばした。


「まぁ、そう考えるのが普通だよな。感覚も間

 違ってない。だから――今から言う台詞を

 、その地区を管理してるできるだけ偉いやつ

 に伝えろ。話は、それからだ」


ナナシは、相変わらず自信満々に少女に言い返す。


「……実際、何者かもわからない奴らを連れて行くリスクを考えると、自分から何かしらの情報を開示してくれる方がありがたいですからね。

いいですよ?」


少女は少し考え、ナナシに許可を出した。


「【三の目が破れる時、世界は終わる。四の目は神が授けにくる】だ。

これで伝わらないときは、諦めて大人しくついていくけどな。えーっと……」


「私はタリア。分かりましたです。私が知る限

 り、一番の上席じょうせきに確認してき

 ますので、感謝ですよ?」


少女は静かに目を閉じ、交信を始める。すると、すぐに目を開けナナシを驚いた表情で見つめた。


「な、内容まではわかりませんが……あなた達

 を絶対に安全に、私たちの拠点まで連れて行

 けと指示がありました……しかも、最高VIP

 待遇で…」


「ここまで予測通り!流石俺だ!300年先だ

 ぞ!シンラ、信じられるか?」


ナナシはガッツポーズをし、倒れているシンラをおんぶした。


「なんとなく話の流れはわかるけど……相変わらず勝手にいろいろ仕込んでますね。ミソロジーコードも隠しコードでしたし……おかげで私はご覧の通りですけど」


シンラは不満そうに顔をしかめ、ナナシに背負われながらぼやいた。


「ミソロジーコードは、どちらにせよ俺の許可

 がないと使えないから言わなかっただけだ。

 それに、シンラのことだから俺のことになる

 と勝手に使いそうだし」


「それは……そうですけど……」


シンラが反論しようとしたが、何も言い返せなかった。


「随分仲が良いようですが、お二人はどんな関

 係なんですか?」


そのやりとりを見て、少女が少し気まずそうに二人を交互に見ながら質問した。


「関係って言うほどのものじゃ……」


「夫婦ですけど、何か?」


ナナシの言葉を遮り、シンラがはっきりと大きな声で宣言する。


「おい!俺たち、いつから夫婦になったん

 だ!」


「300年前ですけど?ナナシが自分で私達の関

 係を考えてくれと言ったと記憶しています

 が?自分で決めろって言っておいて、認めな

 い気ですか?」


「いや……そうは言ってないだろ……」


ナナシはシンラの勢いに押され、モゴモゴと何か言っているが、誰も聞き取れないレベルの声だった。


「僕は無関係ですから、変に絡まないでくださ

 いね?出発します」


少女は、絶対に二人の関係に触れないと誓い、無言で人類の拠点へ向けて歩き出した。



---


「ナナシ、そろそろいくつか説明してもらって

 いいですか?」


拠点に向かう途中、シンラはナナシに質問を投げかけた。


「ん?別にいいけど、状況的に答えられること

 は限られてるぞ?」


「それは分かっています。今聞きたいのは、二

 つだけですから」


シンラは前を歩くタリアを警戒しつつ、ナナシに問いかけた。


「何故記憶が戻ったことを黙っていたのか、そ

 れと、300年後を目指してコールドスリープ

 した理由です。」


「それなら問題ない。記憶の件は、単純に記憶

 操作をされたりしていないか確証が欲しかっ

 たからだ。もしそうだったら、シンラに悪影

 響を与えかねないから、慎重になっただけ

 さ。」


「確証はいつ?」


「いつ……って言うよりは、感覚でってしか言

 えないな。強いて言うなら、シンラの体重を

 言うのを恥ずかしがった辺りかな?

 昔、シンラと同じやり取りをした記憶があっ

 たんだ。300年前の昔話だけどな。」


「ナナシにとっては、昨日のことみたいです

 ね……でも、その視点は流石です。」


シンラは少し嬉しそうにナナシの顔を覗き込む。


「普通に照れるから、やめろ。」


ナナシは柄にもなく照れている様子だった。



---


「イチャコラ、イチャコラですか……。

 ……VIPじゃなきゃ、マジでぶっ飛ばしたい

 ですね」


タリアが死んだ魚のような目で呟いた。

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