第15話 禍厳雷の呪い
俺の前に立つ灯凜の姿は、残月鬼と戦ったときのように変化していた。
金色の瞳に、紅く染まった髪。口調までもが別人のようだ。
神穿ノ禍祓から放たれる紅の光が周囲を照らし、まるで炎のような気迫を帯びている。
穂積も鉄扇を大きく広げ、灯凜と対峙する。
「神穿ノ禍祓に選ばれておきながら禍厳雷を庇いだてるとは……万死に値する!」
「出会って数日だが、彼が根っからの悪ではないことくらい私にもわかる」
憎悪を宿した瞳で睨まれようとも、灯凛はまるで怯まない。
「故に、訳も分からず彼を殺されるわけにはいかない」
「神穿ノ禍祓に選ばれておきながら、誑かされたか!」
そちらに気を取られている間に、俺は背後から拳を振るう。
「よそ見は禁物だろ!」
俺の動きに気づき、穂積が鉄扇を薙ぐ。
扇の縁から放たれた雷が俺の拳をかすめる。体毛が焦げる臭いがするが、構わず前進。
穂積は舞うように後退しながら、鉄扇で連続攻撃を仕掛けてくる。
俺の動きに合わせて灯凜も動く。
神穿ノ禍祓で広範囲を薙ぎ払うように振るい、穂積の足場を奪う。
二方向からの攻撃に、穂積の動きが少しずつ詰まってきた。
「はぁぁぁっ!」
灯凜の神穿ノ禍祓と穂積の鉄扇が激突する。衝撃波が大気を震わせる。
そこへ俺が頭上から飛びかかり、拳に残った僅かな妖力を集中させた。
「シッ!」
穂積は俺の拳を扇で受け止めようとしたが、同時に放たれた灯凜の神穿ノ禍祓の一撃に対応できない。彼女の左腕に紅の刃が攻まる。
バチン! という音とともに、穂積の左腕に巻かれていた太い数珠が弾け飛んだ。
数珠の珠が地面に散らばり、妙な光を放ちながら消えていく。
「くっ……!」
穂積の表情が強張った。
その手から鉄扇が落ちかけたが、咄嗟に掴み直す。
左腕の数珠があった部分に、雷のような文様が刻まれており、どこか馴染みのある妖力が染み出ていた。
「忌々しい……!」
風が吹き、焚き火が揺れる。
穂積の声に、苦悶の色が滲んでいた。
「お前、その腕は」
封じ込めていた妖力が溢れ、みるみるうちに左腕が俺の腕と同じ銀色の体毛に覆われていく。
「これは禍厳雷の呪いじゃ。貴様のせいで、我が身は禍厳雷の呪いに侵された。母からそう窺った」
「そんな呪いはかけた覚えはねぇよ」
「黙れ畜生め。貴様さえ滅ぼせば、我はこの忌々しい呪いからも解放される……そのために妖怪を殺し、ひたすらに鍛錬を続けてきたのじゃ」
穂積は巫女とは思えない憎悪に満ちた視線を俺へ向けてくる。
「今日は退こう。だが次は容赦せんぞ、災厄の獣・煌天丸。そして貴様もじゃ、神穿ノ禍祓を持つ娘よ」
そう言い残すと、穂積は鉄扇を鋭く一振りする。
周囲に霞の壁が立ち、視界を奪う。
霞の中、穂積は身を翻し、溶けるように姿を消した。
残されたのは、雷と吹き荒れた風で荒廃した景色だけだった。
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