和風ファンタジー世界に人外転生してラスボスやってたら封印されたけど、転移JKに解放されたので相棒枠になろうと思います
サニキ リオ
第1話 ラスボスから相棒へ
山頂を吹き抜ける乾いた風が、乾いた体毛をなぞっていく。
こんな辺鄙な霊山のてっぺんまで、わざわざ来る物好きなどまずいない。
何かを叫んだところで、返ってくるのは風の唸り声だけだ。
八雲霊山。忌まわしい霊気に満ちたこの地に、俺は封じられて五十年になる。
かつては、大陸の隅から隅まで、気ままに暴れ回った雷獣の大妖怪。それが今じゃ、岩に縫い止められた虫けら同然の存在ってわけだ。
努力してようやく手に入れたチート級の力と自由を、調子に乗って振り回した結果がこれである。我ながら、お粗末極まりない。
当時の俺は、この世界の奴らからすれば〝ラスボス〟だったろう。
俺を封じたのは、封雷ノ巫女を中心とした〝主人公サイド〟の人間たち。
思えばあの瞬間が、この世界における俺のバッドエンドだった。
五つの大岩に囲まれた中心。俺の身体を仰向けに縫いとめるように突き刺さっているのは霊刀の一種である薙刀・
巫女の霊力がこれでもかと注がれたその薙刀は、五十年が経った今もなお、俺の身体をがっちりと封じている。
景色は変わらない。音も匂いも変わらない。五十年という時間は、ただ空しく過ぎるだけだった。
だが、その日は違った。
この五十年、見慣れた景色に微塵の変化もなかった。だが――
「はぁ!? ちょ、何っ!? 何ですか!?」
突如、空間が裂けた。声が響き、風が逆巻く。
「いやぁぁああああっ!?」
……空から、女が降ってきた。
いや、女子高生だった。前世で見慣れた、懐かしき制服姿。
膝丈ほどのスカートがふわりと舞い、桃色の薄布が目に入る。
懐かしきパンツである。
女に触れるのも五十年ぶりだ。
というか、女子高生の股座に顔を埋めたのも初めてだが……悪くない気分である。
せめて体が人間だったら最高だったというのに。
『ぐえっ』
「いやっ、あっ……!」
艶めかしい声と共に少女が跳ね起き、神穿ノ禍祓の柄を握りしめる。
瞬間、胸に激痛が走った。
『が、あぁぁぁぁ!? てめぇ、何しやがる!』
「ご、ごめんなさい! えっ、えっ!? バケモノ!? しかも、しゃべったぁぁぁ!?」
『動かすな! 動かすなって言ってんだろ、このアホンダラァァァ!』
その瞬間、何かが割れる音がした。
封印の要である神穿ノ禍祓が、無理矢理捻られたことで結界に綻びが生じたのだ。
雷が走り、空がうねる。
俺の身体を包んでいた重苦しい霊力が消え、長く忘れていた自由の感覚が蘇る。
「は……?」
目の前で、少女が神穿ノ禍祓を握りしめたまま立ち尽くしている。
五十年間、俺を封じ込めていた神聖なる封印。
それは、突如空から降ってきた女子高生の股座に顔を埋めるというラッキースケベがきっかけとなり、いとも簡単に解けてしまったのであった。
白銀の体毛に帯電する雷が煌めき、弾ける。
日差しに照らされた角は、久々の自由を喜んで震えていた。
とはいえ、五十年も封じられていたせいか体のサイズが縮んでいる気がする。
長い封印で妖力をかなり吸われてしまったようだ。
「あ、あなたは……一体……」
少女は薙刀を両手で握りしめたまま、震える声で訊ねた。
この世界に転生して以来、初めて出会った同郷の人間か。
人外転生した俺とは経緯が違う、異世界転移者。
どちらにせよ、この少女は特別な存在に違いない。
神穿ノ禍祓を引き抜いたということは、何かの資質があるのだろう。
『我が名は
ちょっと大仰に名乗りながら、俺は彼女を観察した。
平凡な顔立ちながら、感情豊かな表情が印象的な少女。
おそらく前世の日本でいえば、どこにでもいるような女子高生だったのだろう。いや、服の上からでもわかる胸と尻のデカさはどこにでもいないだろう。
それがここに召喚され、得体の知れない力を宿すなど……ちょっと腹立たしい。
俺のように死を経て人外として生まれ変わり、弱小雷獣からスタートして力を得るために何十年も苦労した身からすれば、あまりにも安易な主人公的展開だ。
「わ、私は
制服に見覚えがあると思ったら同じ学校だった。
俺が死んでから何年経ってると思ってんだ。百年以上前だぞ。何回創立記念日やってんだよ。
それとも日本とはときの流れが違うのだろうか。
どちらにせよ、この出会いは、この世界での立ち位置を変えるチャンスである。
この世界における俺の立ち位置は、あくまでも最後に封印されるラスボスだった。
異世界転移してきた灯凜は、そんな俺を封印していた神穿ノ禍祓を抜けた。
こいつはただの日本人ではない。女子高生が和風ファンタジーの世界に転移する物語の主人公の立ち位置にいると見ていいだろう。
暫定主人公のこいつがいれば、俺はこの世界で〝主人公の相棒枠の人外〟として上手くやれるはずだ。
二度と封印などされてたまるか。
『お前、その薙刀を抜いたな。神穿ノ禍祓を扱える人間は、そういない』
「かんぬき……の何ですか?」
灯凛は手に持った神穿ノ禍祓を見つめ、その重みに戸惑いを隠せない様子だった。
よく見てみれば、薙刀の柄を握りしめる手が震えていた。
『ふん!』
空に稲妻が走る。雷雲がざわめき、俺の声がこだまする。
そして、俺は不敵な笑みを浮かべながら告げる。
『灯凜。お前に話してやることがある。この世界のことを、知りたくないか?』
これは、人外転生した俺が〝ラスボス〟から〝相棒〟へ昇格する物語だ。
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