銃は剣よりも強し、剣は銃よりも強し

 

大鷲にグリフォンの力を与えたミカエルはルシファーとの一騎打ちを望んだ。

ルシファーはそれに応え、本気で殺し合う闘いを始めんと全ての権能を解き放った。

漆黒の翼は2枚から6枚に変化し、頭上には光り輝く光輪が出現し、強膜は黒く、瞳孔は真紅の光を灯した。黒い衣を身に纏い、先端が鋭く尖った尾が生えた。

 

「我が名はルシファー。光を掲げる者」

 

「ふっ、そうでは無く君の真名を聞かせてもらいたいねぇ。」

 

ルシファーは苛立った様に顔を顰めた。

ミカエルは挑戦的な笑みを浮かべると、剣の切先を再びルシファーに向け、ちょいちょいと動かして挑発した。ルシファーは両腕を片刃の剣に変え、交差させながら構えた。

 

「いざ、尋常に…」

 

「「勝負ッ!」」

 

言うが早いか、ルシファーは刀剣と化した両腕をクロスさせたまま突進しミカエルに斬りかかった。大気を切り裂きながら疾風と化したルシファーの斬撃を、ミカエルは冷静に楯で対処し、カウンターに長剣で突きを繰り出した。

勢い故に反動の隙も大きかったルシファーの二の腕を剣先が掠めた。

ルシファーは今度は後退を選ばず、接近戦を続ける事を試みた。

 

右上から左下へ、右腕を振るうと同時にミカエルの長剣に注意しながらも左腕を横一文字に払う。

熾天使は正面からの剣閃を楯で受け流すと、右から迫る斬撃を上体を逸らして回避した。

ルシファーは頑強な楯に全ての攻撃を集中させる事にした。

超高速の斬撃が雨あられとミカエルの丸盾に降り注ぐ。

甲高い金属音が止まる事なく鳴り続け、火花が幾重にも散る事で、宙に線香花火が浮かんでいる様に見えた。ミカエルは険しい顔で止めどなく振るわれる連撃を受け続けた。

 

一瞬の隙を見逃さず、ルシファーは楯が僅かに大振りになった瞬間をついて熾天使の左腕を楯ごと蹴り上げた。ミカエルは咄嗟に上段からの斬撃を放ったが、ルシファーは一歩も退かずに左腕で受け止めた。そして、右腕でミカエルの腹部を貫いた。

そのまま右腕をスライドさせミカエルの半身を両断しようとしたが、ミカエルが楯を振り下ろしたのを感知するや熾天使の腹に蹴りを打ち込み、反動で距離を取った。

 

「やるじゃないか。久しぶりに楽しめそうだ。」

 

貫かれた腹部に手を添えて治癒しながらミカエルはそう言った。

ルシファーはそれには応えず、ミカエルに勝つ方法を思案した。

 

…剣の応酬では埒が開かんな。

 

ルシファーは戦法を切り替える事にした。

 

「時に、ミカエル。当世では剣は廃れているらしい。今はこう言う武器が流行りらしいぞ。」

 

そう言うとルシファーの右腕が黒く細長い筒状に変化した。

ミカエルは眉を顰めて問うた。

 

「…何だそれは?その様なものが剣よりも強いと?」

 

「まぁ、実際に受けてみれば分かる。」

 

ルシファーはミカエルに真っ直ぐ筒の先端を向けた。

ミカエルは歴戦の経験から、死の直感を受けて反射的に楯を構えた。

 

堕天使の右腕から大気を振るわす炸裂音が響き、直後、楯に不可視の矢が命中して火花を散らした。熾天使はその武器の恐ろしさを直感的に理解した。

 

「驚いたか?これは当世の人間が使う武器、“砲”と言う物だ。」

 

…これは一気に形勢が揺らいでしまったか?

 

ミカエルの顔に初めて焦りの色が浮かんだ。

一気に決着を付けねば不味いなとミカエルは新たな武器、“砲”に注意を払いながら思った。

 

突如、ルシファーは何を思ったかミカエルとは見当違いの方向に砲身を向けた。

炸裂音が響き、“不可視の矢”が飛んでいくのが見えた。

実際には矢は不可視なのではなく、己に向けられている時には視認出来ない程小さく、そして速いのだった。

 

そして、小さな矢、“弾丸”はいつの間にか空中で争っていたネフィリムとグリフォンの方へ凄まじき速度で飛んでいった。

弾丸はグリフォンの胸に吸い込まれる様に命中し、グリフォンは何が起きたのか理解出来ないまま、ネフィリムに頭部を貫かれ墜落していった。

 

人間は…ここまでの力を身につけたのか…

 

かつて、人が神と同じ高さに至らんとした時の事をミカエルは思い出した。

 

瞬間、凄まじい寒気を感じてミカエルは羽ばたいた。

己が数瞬前にいた場所を弾丸が通過していった。丁度、胸の位置だった。

 

「つっ」

 

「ははっ、どうした?かの大天使ともあろうお前がこんな物に恐れを抱いているのか?」

 

「戯言をっ!」

 

ミカエルは剣と楯を構えながら砲を無効化する術を思案した。

幸い、見てから対処するだけの余裕はある。弾丸の速度よりミカエルの方が早い。

しかし、自らが得意とする接近戦に持ち込むには圧倒的に不利だ。戦闘中に至近距離からの弾丸を避ける自信は無い。

かと言ってこちらも弓で抵抗するとなると、弾速の面でやはり圧倒的に不利だ。

 

…いや、待てよ?

 

ミカエルは接近戦に持ち込む事にした。

更に高高度まで飛翔し、太陽を背にしてグリフォンの様に急降下を始めた。

頭を地上に向け、楯を構える事で全身を隠し、兎に角狙いにくい様にした。

 

狙い撃つ事を諦めたルシファーはミカエルを避ける為に羽ばたいた。

ミカエルはルシファーの高度に到達する手前で急減速すると、今度はルシファー目掛けて懐に潜り込む勢いで急加速した。

 

ルシファーは突進してくるミカエルに狙いを定めずに発砲したが、ミカエルは楯を構えたまま強烈なタックルを見舞った。

ルシファーが体勢を立て直す隙を与えまいとミカエルは更に剣を下段に構え突進した。

急速に近づいてくるミカエルは向けてルシファーは砲身を向けた。

その向けられた砲身をミカエルの斬撃が肘の根本から切り裂いた。

 

「がぁっ」

 

ルシファーは苦痛に顔を歪めながら、更に追い打ちを掛けんと上段に構えて向かってくるミカエルに左腕の剣を構え突撃した。

双方の刃が相手を切り裂かんと交差したその瞬間。

 

「その辺にしたまえ。」

 

荘厳な雰囲気の男の声がした。

 

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